高木美保さん・パニック障害と「うつ病」をのりこえる

タレントの高木美保さんのうつ病体験が語られた。(NHK教育テレビ、2005年11月3日)  高木さんは、自力で治したというまれな例である。高木さんは、仕事のストレスがパニック発作、うつ病のきっかけだった。

高木さん
 「電車の中でパニック発作を起こしたのが始まりでした。一度起きると、「またこの発作が起こるのではないか」と不安になっていき、それがどんどん自分の中に積み重なって、日常のすべてに不安を感じるようになってしまいました。それがうつの入り口だったのですが、当時はパニック発作ということばも聞いたことがなかったので、自分がうつだとは思ってもいませんでした。」

 高木さんは、パニック障害やうつ病について知らなかった(病気)だという意識がない)ので、両親に自分のつらさを隠していたという。それで、家庭も心やすまる場所ではなくなった。

高木さん
 「わたしは隠していました。・・・・、特に父に対して「期待に応えなければいけない」というものをずっと持っていたんです。応えると親は喜ぶじゃないですか。でも、応えられなかったら、親の失望の顔を見てしまうわけですよね。子どもにとって親から理解されないということは、親が思う以上にすごくつらいことだったりします。そうすると、ほんとうは一番羽を休められる場所であるはずの家庭が、一番居づらくなってきます。」

 高木さんは、大分、無理して(これは、他の人にはすすめられない。家族や近い人に支援を求めたほうがよい)、一人でうつを乗り越えていった。うつ病は、自己、環境、将来を否定するといわれるが、高木さんも、将来を悲観した。パニック障害や「うつ病」だという意識があれば、しかるべき治療を受けただろうが、当時、高木さんは、ご存知なかった。今でも、うつ病、パニック障害になった時、自分が、それだとすぐ自覚できる人は少ない。だから、無理して、長引き、自殺することも多い。

高木さん
 「今、収入がなくなったら、この先、暮らしていけない」と、今の自分よりも、未来の自分のほうが心配なんですよ。ほんとうは、今、無理をしたら、今、生きていけないのに。うつの状態に陥る人というのは、ある意味、きまじめで心配性なんですよね。「このまま家にこもっていたら、だめになってしまう」と思って、無理して外に出て、ストレスを受けてよけい精神的にだめになってしまう……という悪循環を繰り返したこともありました。」

 高木さんは、自力で気がついた。考え方を変えることができた。

高木さん
 「ところが、ある日、気がついたんです。「先のことを心配するほど、わたしは強くない」と。だから、「先のことは心配しない」って決めたんです。「今を心配しよう」と。それが小さな前進でした。」

 (こういうふうに、ご自分で、気がつくという柔軟心を高木さんは、もっておられたから、心の転換ができた。しかし、多くの人は、それが難しい。こういうことも、カウンセリングを受けると、助言されるから、カウンセリングを受けるのが早道である。)

「高木さんの転機は?」というアナウンサーの問いに。

高木さん
 「わたしは女優をやっていたのですが、せりふがものすごく負担だったんです。いい台本で、ストーリーもすばらしいんですけれど、「わたしはこういう人じゃない」という違和感、どうしても埋められない溝みたいなものがあって、それがどんどん広がっていってしまったんです。それで、ドラマの後半のころには、小さな鳥かごに押し込められるような気持で演じていました。」

 こういう、自分の仕事や環境についての、思うようにいかないという心理(自分、環境、将来の否定)状況が、うつ病を起こし、維持する。だから、コントロール不能という心理状況を変えないと治らないのだが・・・。高木さんは、ご自分で、考え方を変えることができた。

 「でもある日、気づいたんです。「わたしは女優に向いていない」と。「向いていないんだったら、体も疲れていることだし、やめてみよう」と。将来を心配するより、今の自分を心配しなきゃと思っていたので、自分以外の誰かになることをやめたら、自然と自分が戻ってきました。女優もやめて、親の期待にも応えていないかもしれない。病気にもなって中途半端かもしれないけれど、わたしはわたしになりました。
 そうしたら、自分を肯定できて、自分が世界一好きになりました。誰にどう思われているとか、誰かにこうしてあげたいとかということは飛び越えてしまって、「誰が何と思ってもいいもん」というくらいになったんです。わたしのことを嫌いな人だっているでしょう。わたしだって申し訳ないけれど、嫌いな人はいますから、みたいなね。」

 自分の状況の困難さ、自分そのものの否定を克服して、何とか、きりぬけていけるという意識ができた時に、うつ病は治る。高木さんは、こうして、自力で克服したが、一般的には、自力だと、違う見かたに転換しないままで、かえって「がんばる」が、不本意な状況(心理)は変わらないので、うつ症状を長引かせてしまう人もいるから、早い段階で、家族やカウンセラーの支援を受けた方がいいでしょう。うつ病になると、判断力が変わっている上に、それまでの長い間の思考傾向が関係しているので、なかなか自力で治すことはむつかしい。

パニック発作について

 高木さんは、パニック発作がうつ病の入り口だったという。パニック発作も、ストレスや過労をきかっけとして起きる。セロトニン神経が弱まっている人が多い。そういう状況であったから、電車の中で、発作が起きたのだろう。
 発作を苦にして、外出を避けたり、種々の場所に行くことができなくなり、生活が阻害されると「パニック障害」となる。パニック障害になると、うつ病を併発することが多い。パニック障害になると、予期不安が大きいし、仕事などに支障が出て、苦悩するから、うつ病にもなる人が多い。

 私どものところにカウンセリングに来られる方の中にも、パニック障害とうつ病の並存の方が多い。両方とも、セロトニン神経の弱体化が起きているとされて、薬物療法では、セロトニン神経に作用する抗うつ薬が使用される。
 薬物療法で効かない場合でも、心理療法で効果がある。アメリカのマインドフルネス、アクセプタンスの心理療法で効果があがっているとおり、呼吸法を中心とした心理療法も効果がある。うつ病、パニック障害は、セロトニンという物質だけの障害ではない。心の用い方が大きく関係している病気だから、薬物療法だけではなくて、心の用い方を変えることで治すべきだ。それでこそ、再発が防止される。 最近の脳科学の研究によれば、前頭前野が生きる意欲、やる気、行動、感情の制御などにかかわっていることがわかってきた。うつ病の人は、ここが低調になっているらしい。うつ病の重症者にみられる、「抑うつ気分」も、セロトニン神経ではなくて、前頭前野またはその周辺の臓器の失調であることが示唆される。抑うつ気分は、考え方を変えただけでは、すぐには、改善しない。これがあると、自殺念慮と結びつくようだ。うつ病を治すには、前頭前野の活性化の治療法が重要な要素であることを示唆する。
 高木さんは、薬物を用いずに、心のきりかえで治ったのだ。ほかの人で、薬物療法で完治せず、ながびいている、うつ病、パニック障害の人も、心理療法で治る可能性があることを物語る。