パニック障害・自律神経ストーム
=パニック障害には、自律神経の激しい亢進がある
パニック障害は、発作性の嘔吐、激しい動悸、めまい感などの症状を伴う。パニック障害の一部の症状が、似ている疾患がある。
「臨床的にも、第三脳室周辺の脳腫瘍による間脳性自律神経てんかん(DATE)、辺縁系脳炎(狂犬病、ヘルペス脳炎)、急性期脳血管障害などの中枢神経疾患で、激烈かつ動揺性・発作性の自律神経機能異常(自律神経ストーム)を伴うことは早くから知られていた。」(66頁)
自律神経ストームの症状は次のとおりである。(67頁)
心・血管系
動揺性ないし
発作性の高血圧・頻脈
(低血圧・徐脈・循環虚脱を伴うことあり)、
顔面蒼白
ないし紅潮、虚血性心疾患・心室性不整脈
呼吸器系
肺水腫、
低換気、呼吸リズムの異常(過呼吸、
Cheyne-Stokes呼吸など)
体温調節系
動揺性ないし
発作性の発汗
(無汗を伴うことあり)、立毛、高熱(しばしば40℃以上)
消化器系
悪心・嘔吐、
唾液分泌過多、腸管運動亢進、胃潰瘍、胃内出血
血液
血漿ノルアドレナリン、バソプレシン高値、血清CK(MM型)高値?
これらの症状のなかには、パニック障害の症状と似たものが多い。
赤字
が、パニック発作、パニック障害の診断基準にある症状(類似の)である。
この自律神経は、上位の大脳辺縁系、橋、延髄などの連絡を受けていて、上位の機能亢進または低活性によって、自律神経ストームが起きることが推測されている。それら、上位の機能は、感情、思考(認知、特に予期不安、破局的な広場恐怖との結合)、自律神経による身体反応(情動性自律反応)と関連が深い領域である。
私どもは、次の関連(関係づけ、機能連合)があるとの推測(仮説)で、その連合の解消をはかるか、感情の興奮を抑制(種々の連合解消の技法で、マインドフルネス、アクセプタンスの訓練による)するなどの方針で、治療(心理療法)を試みる。
ストレス思考→感情→情動性自律反応→自律神経の異常な亢進を誘発(パニック発作)
明確な思考・感情によらない軽い情動性自律反応→発作と誤認(関係づけ)→自律神経の異常な亢進を誘発(パニック発作)
予期不安→感情→軽い情動性自律反応→自律神経の異常な亢進(パニック発作)
身体的ストレス(過労など)→自律神経の異常な亢進を誘発(パニック発作)
自律神経の機能亢進が潜在して存在
パニック発作が軽くなってからも、自律神経の変調は潜在化して、残ったままと推測される。自律神経ストームの場合について、次のようにいわれているから、パニック障害についても、同様の潜在化があると推測される。寛解に至っても、時々、軽い発作が起きるからである。
「自律神経ストームを生じる神経疾患は、たとえ明らかな自律神経症候を欠く軽症例であっても、自律神経機能検査では軽度の交感神経機能亢進を示すことが多く、基礎に存在する交感神経機能亢進が顕在化した症候が自律神経ストームであると理解すべきであろう。」(67頁)
自律神経の潜在的な過敏性を残す。パニック障害の人も、寛解期、間欠期においても、自律神経の過剰亢進性は、潜在的に持続しており、何かの刺激で、賦活して、発作が起きると推測される。これを考慮して、なるべく、自律神経の過剰亢進の起きない心理的な心得を身につけて、長期間、その発作が起きるのを防止できれば、予期不安、広場恐怖も解消するとの方針で、自己洞察法の訓練を行う。
そこで、予期不安、広場恐怖の形成の神経生理的メカニズムもみてみよう。
(注)
(参考)「Clinical Neuroscience」(月刊 臨床神経科学)、中外医学社、Vol.23 No.1(特集「大脳辺縁系」)、「自律神経機能」埼玉医科大学短期大学・田村直俊氏、埼玉医科大学島津邦男氏、(頁)は、本書による。
(続)