パニック障害の予期不安
=予期不安がかえって発作を誘発
パニック障害(PD)には、予期不安と広場恐怖を伴うことが多い。予期不安の脳神経の作用と、治療方針について、考える。 健常人に、電撃刺激の実験をすると、予期不安があると、前部帯状回(ACC)の血流量が増加する。従って、ACCは、予期不安に関係している。不安を惹起する物質CCK-4類似の物質の投与の実験では、PD患者では、血流量がもっと大きかった。
「健常人と比較してPD患者では、CCK-4類似のpentagastrin 投与に対する予期不安によるACCの血流増加がより大きかった。ACCの特に腹側部は、うつ病などの情動障害でも過剰に活性化している場合があり、上記の所見は予期不安に特異的であるとはいえないが、ACCが予期不安の発現、あるいは過剰な予期不安に対する制御に関与している可能性を示唆する。」(1296頁)
「強い予期不安は、過剰で不合理な認知過程を含む場合がある。PA(パニック発作)を何回か経験すると、その後患者は偶発的で些細な身体徴候、例えば労作後の軽い動悸をも重篤な身体異常を示唆する警告信号であると認知するようになる。さらにエピソード記憶が活性化されると、以前に生じたPAに違いないと考え、PAを誘発してしまうことがある。PAに伴う交感神経興奮に伴う身体感覚が、内因性の条件刺激として作用していると理論化されるが、条件付け以外に、破局的認知の介在が想定される。自律神経反応と情動発現の中核構造である脳幹および大脳辺縁系と、破局的認知を支える大脳新皮質を結びつけるインターフェイスとして関与しているらしいが、帯状回は重要と考えられる。」(1296頁)
機能間の連合
「自己洞察瞑想療法」では、前機能と次の機能の関係づけを「機能の連合」というが、連合は、意識できるものと意識下のことがある。身体感覚や予期不安などにおいて、次の連合が起きている。( )は、推測される意識下の連合。
「身体感覚(無関係の身体反応)」→「認知(発作が起きそうだという認知・破局的認知・記憶よみがえり)」→(自律神経の異常な亢進)→「発作」の連合
◆予期不安をかかえている時に、本来は発作とは無関係の身体徴候(*1)
→
◆発作の 警告信号であると考える
→
◆過去の発作の記憶がよみがえる
◆破局的認知
→
(◇自律神経の異常亢進のスイッチ)
→
◆発作が起きる
(*1)たとえば、労働の後の軽い動悸=身体感覚
連合の解消
パニック発作が、このような連合によって、起きるのであれば、この連合を解消すればよいことになtる。薬物療法では、不安感情そのものを抑制する作用をするだろうが、不安の思考(予期不安)を止めることは難しいので、患者の予期不安は、いつまでも、つきまとうことがある。そうすると、無関係の身体感覚や、大きな心理的ストレス、強い感情的な出来事があると、発作が起きるだろう。
「自己洞察瞑想療法」では、このような、機能(認知、身体感覚、感情、など)の関係づけをつけないようにする毎日の訓練を重ねることによって、その連合を解消させようと試みる。
予期不安の思考に落ちないようにして、呼吸や視聴覚などに「注意」を向ける訓練を、坐って実践したり、行動中にも、実践することを毎日、繰り返しているうちに、やがて、予期不安がほとんどなくなる。発作に無関係の身体感覚は、無関係の感覚として、ありのままに受け止める(アクセプタンス、受容である)ようになって、意識で制御できる連合については、発作を誘発する連合の解消が実現する。
完治したようでも、なお潜在化
自己洞察法の実践を継続していると、発作が起きなくなり、広場恐怖も解消していく。予期不安も広場恐怖もなくなり、発作も起きなくなって、パニック障害が、完治したと本人も治療者も判断する。しかし、自己洞察法は、その後も実践すればいいのだが、発作が全く起きない状態が持続すると、パニック障害だったことを忘れる。そこで、油断が起きる。やがて、実践を怠り、1年くらい後に、何か、ストレスが起きた時に、過剰に感情的になると(自己洞察法の実践を怠らなければ、過剰に興奮しないはずなのに)、軽い発作が起きることがみられる(だが、自己洞察法を思いだして、実践すると長引かない)ので、自律神経の亢進は潜在化して、なお、残っているようである。ただ、数年、発作が起きない状態が持続できれば、その潜在化の亢進も消失するのかどうか、不明である。
パニック障害が完治したと思っても、数年は、自己洞察法の実践を推奨したい。自己洞察法は、たいした労力が必要なわけではなくて、ただ、油断しないだけであるから、意欲だけである。 うつ病の場合にも、似たような現象がある。薬物療法で軽快しても、うつ病になりやすい脳内の変調の潜在化が残っているようで、うつ病に再発が多いのは、よく知られたことである。自己洞察法で治癒したうつ病で、その後も、自己洞察法の実践を継続する人は、再発しにくい。
(続)次に、広場恐怖を検討する。
(注)
(参考)「Clinical Neuroscience」(月刊 臨床神経科学)、中外医学社、Vol.23 No.11(特集「帯状回」)、「パニック障害と帯状回」新潟大学、北村秀明氏、塩入俊樹氏、染矢俊幸氏(頁)は、本書による。