パニック障害の予期不安

 =予期不安がかえって発作を誘発

 パニック障害(PD)には、予期不安と広場恐怖を伴うことが多い。予期不安の脳神経の作用と、治療方針について、考える。  健常人に、電撃刺激の実験をすると、予期不安があると、前部帯状回(ACC)の血流量が増加する。従って、ACCは、予期不安に関係している。不安を惹起する物質CCK-4類似の物質の投与の実験では、PD患者では、血流量がもっと大きかった。

機能間の連合

 「自己洞察瞑想療法」では、前機能と次の機能の関係づけを「機能の連合」というが、連合は、意識できるものと意識下のことがある。身体感覚や予期不安などにおいて、次の連合が起きている。( )は、推測される意識下の連合。

  • 「身体感覚(無関係の身体反応)」→「認知(発作が起きそうだという認知・破局的認知・記憶よみがえり)」→(自律神経の異常な亢進)→「発作」の連合

    ◆予期不安をかかえている時に、本来は発作とは無関係の身体徴候(*1)
    ◆発作の 警告信号であると考える ◆過去の発作の記憶がよみがえる
    ◆破局的認知
    (◇自律神経の異常亢進のスイッチ) ◆発作が起きる

    連合の解消

     パニック発作が、このような連合によって、起きるのであれば、この連合を解消すればよいことになtる。薬物療法では、不安感情そのものを抑制する作用をするだろうが、不安の思考(予期不安)を止めることは難しいので、患者の予期不安は、いつまでも、つきまとうことがある。そうすると、無関係の身体感覚や、大きな心理的ストレス、強い感情的な出来事があると、発作が起きるだろう。
     「自己洞察瞑想療法」では、このような、機能(認知、身体感覚、感情、など)の関係づけをつけないようにする毎日の訓練を重ねることによって、その連合を解消させようと試みる。

     予期不安の思考に落ちないようにして、呼吸や視聴覚などに「注意」を向ける訓練を、坐って実践したり、行動中にも、実践することを毎日、繰り返しているうちに、やがて、予期不安がほとんどなくなる。発作に無関係の身体感覚は、無関係の感覚として、ありのままに受け止める(アクセプタンス、受容である)ようになって、意識で制御できる連合については、発作を誘発する連合の解消が実現する。

    完治したようでも、なお潜在化

     自己洞察法の実践を継続していると、発作が起きなくなり、広場恐怖も解消していく。予期不安も広場恐怖もなくなり、発作も起きなくなって、パニック障害が、完治したと本人も治療者も判断する。しかし、自己洞察法は、その後も実践すればいいのだが、発作が全く起きない状態が持続すると、パニック障害だったことを忘れる。そこで、油断が起きる。やがて、実践を怠り、1年くらい後に、何か、ストレスが起きた時に、過剰に感情的になると(自己洞察法の実践を怠らなければ、過剰に興奮しないはずなのに)、軽い発作が起きることがみられる(だが、自己洞察法を思いだして、実践すると長引かない)ので、自律神経の亢進は潜在化して、なお、残っているようである。ただ、数年、発作が起きない状態が持続できれば、その潜在化の亢進も消失するのかどうか、不明である。
     パニック障害が完治したと思っても、数年は、自己洞察法の実践を推奨したい。自己洞察法は、たいした労力が必要なわけではなくて、ただ、油断しないだけであるから、意欲だけである。  うつ病の場合にも、似たような現象がある。薬物療法で軽快しても、うつ病になりやすい脳内の変調の潜在化が残っているようで、うつ病に再発が多いのは、よく知られたことである。自己洞察法で治癒したうつ病で、その後も、自己洞察法の実践を継続する人は、再発しにくい。

    (続)次に、広場恐怖を検討する。


    (注)