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パニック障害・最近の研究動向
=認知行動療法により前頭前野が活性化して治る
最近、パニック障害の新しい研究動向を紹介した専門書が発行された。要点をご紹介します。
「パニック障害」最新医学社、竹内龍雄編集、定価5250円。
(注)専門家向けの本であるから、患者さんが読んで効果があるものではなく、結局、薬物療法や心理療法を受ける必要があることを知ることになるだけである。薬物療法、認知行動療法が効果があるということが記述されていて、専門的な用語で記述され、患者がどうするかという患者向けの本ではない。
GormanやCoplanらの研究により、パニック障害の神経解剖学的経路は、次のような仮説が有力である。
- 青斑核が亢進して、自律神経が異常な興奮→心拍数増加、血圧上昇
- 中脳中心灰白領域の亢進→すくみ行動
- 結合腕傍核→過呼吸、呼吸のタイミングの変調
- 網様核→驚愕反応(死の恐怖、制御不能恐怖)
熊野氏が、これをさらにすすめて、修正、ないし、新しい知見を加えている。PAG(中脳水道周辺灰白質)も、パニック発作に関係していることが指摘されているが、扁桃体→PAGではなくて、逆に、PAGが責任部位かもしれない。
途中の記述をすべて省略して、結論的な部分はこうである。
「さらにPAGに関しては、上記のとおりCoplanらのモデルにおいて想定されているように、必ずしも扁桃体の下流に位置するというよりも、自発性パニック発作の脳内責任部位として活動が強まっている可能性も考えられた。」(「画像研究・神経解剖学的仮説」熊野宏昭、83頁 )
パニック障害は、認知行動療法で、よく完治することがある。認知行動療法が、PAG(その他の部位の亢進も)を抑制するような効果を発揮するのかもしれない。薬物療法では、その効果が弱いが、認知行動療法のほうが、そういう効果が強くみられるようである。
認知行動療法(CBT)で改善がみられた患者の治療前後の脳を比較したところ、CBTは、前頭前野の代謝を亢進させることがわかった。また、前頭前野が、直接、PAGを抑制している可能性も示唆される。
「治療によって、病的に活動が強まっていた可能性のある右海馬、左腹側前帯状回、橋、そして小脳の糖代謝が低下するとともに、治療前には異常が必ずしもはっきりしなかった両側内背側前頭前野の糖代謝の増加がみられた。」(84頁)
「CBTによって内背側前頭前野の機能が適応的に強化され、それが海馬の過剰な活動を抑制し、予期不安とともに広場恐怖を改善した可能性が考えられる。」(85頁)
「その一方で、発作頻度とPAG周辺の糖代謝の変化率に正の相関が認められたことは、PAGが自発性の発作に関連を持つとするCoplanらのモデルに一致するものであり、このことに関連して、内背側前頭前野からPAGに抑制性の投射があることは一考に価する。」(85頁)
疲労する運動後とか、就寝中にも、発作が起きることがあるので、パニック発作は、心理的な問題ばかりではなくて、脳部位のいずれかに障害(亢進または機能低下)がある可能性がある。こうして、前頭前野の機能低下、PAGの機能亢進によって、パニック発作が起きて、前頭前野の抑制機能が弱くて、発作を持続させ、パニック障害に発展していた可能性がある。
そこで、パニック障害は、前頭前野の抑制機能を向上させる心理療法が効果を発揮している。特に、認知行動療法、マインドフルネス心理療法がこれに該当する。ただし、心理療法であるから、治療者と患者の両方に、一定期間、協同して治療行為を継続する意欲、スキルがある場合に、効果があることはいうまでもない。(背景に、さらに、他の問題があって、パニック障害ばかりではない患者は、課題を遂行できない場合がある)