パニック障害・最近の研究動向
=認知療法により感情系の亢進をしずめる
パニック障害(PD)についての、最近の研究成果をみています。
うつ病患者は、コルチゾール増加
うつ病患者は、ストレスホルモンであるコルチゾール(グルココルチコイド)が増加している。心理的ストレスを受けて、不快な思考(不満的、否定的、悲観的、絶望的、解決不能的など)が起きるので、不快な感情が起きて、コルチゾールが分泌される。これによって、サイトカインを産生して、脳内に入り、前頭前野などを失調させ、うつ病の精神症状が起きると推測される。
「視床下部ー脳下垂体ー副腎皮質(HPA)系は、生理学的あるいは行動学的ストレスに対する反応を調整する重要な役割を担っている。したがって、PDのような不安障害の研究には欠かせない関心領域である。ちなみに、現在、PDの責任脳部位とされているのは扁桃体であるが、この部位もHPA
系を活性化することが知られている。」
「HPA系はうつ病において詳細な研究がされており、うつ病患者ではコルチゾールの上昇などが知られている。」(1)
HPA系、コルチゾール、サイトカインについては、次の記事で触れた。
パニック障害患者でコルチゾールは?
では、パニック障害の患者は、どうなのかという点であるが、まず、安静時(発作が起きていない時の日常)では、コルチゾールは、パニック障害の患者の一部、広場恐怖を伴う患者の一部のみ多くなっている。(NCは健常者である)
「ほとんどの研究では、有意な上昇を示すうつ病患者と比べコルチゾールは低下しており、基礎値はNCと変わらないとされている。また、広場恐怖を伴うPD患者における報告では結果が一致しておらず、軽度のコルチゾール高値を示すとする報告から、そうではないとするものまでさまざまである。」(2)
パニック障害が長引かないうちは、コルチゾールは健常者なみである。パニック障害が長引いていると、うつ症状も併発するが、そのような患者は、コルチゾールが高いであろう(推測)。
次に、発作(PA)が起きている時の、コルチゾールは、上昇していない場合と、上昇している場合が報告されている。「実験環境下で生じた自発性PAにはコルチゾールの増加を伴わないと報告」(3)される。さらに自然環境下で生じた自発性PAでは、コルチゾールが増加するという報告もある。
「自然環境下で生じた自発性PAではコルチゾールが増加するという報告もある。Yehudaらは、PD患者ではうつ病患者と比べてリンパ球のグルココルチコイド受容体の数が有意に増加しており、これはHPA系の negative feedback loop によるものと述べている。」(4)
認知的介入
認知的な助言をすると、PD患者でも、健常者(NC)でもコルチゾールを減少させる。
「Abelson らは、9分間の認知的介入の有無がペンタガスチンによるコルチゾールや副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の上昇にどのような影響を及ぼすかについて調べている。彼らの結果では、認知的介入はコルチゾールとACTHを有意に減少させたが、PD群とNC群との間の違いは認めなかったとしている。彼らの報告は、薬物療法以外の治療法によってHPA系が変動することを明確に示した点で非常に興味深いものである。」(5)
認知的介入(心理療法の一つの技法)は、コルチゾールを減少させるから、うつ病の治療には、効果があるわけがわかる。
パニック発作は、コルチゾールが直接、引き起こすものではなさそうだが、自律神経が亢進するとパニック発作は誘発されることがある。認知的介入は、コルチゾールの視点からも、パニック障害に、効果があるだろう。パニック障害の治療には、ほかに、前頭前野の抑制機能が大きな効果を発揮するようである。ここにも、認知的介入や行動療法的技法が効果があるようである。
- (1)「パニック障害」最新医学社、竹内龍雄編集、98頁。
- (2)同上、98頁。
- (3)同上、99頁。
- (4)同上、99頁。
- (4)同上、99頁。
(注)専門家向けの本であるから、患者さんが読んで効果があるものではなく、結局、薬物療法や心理療法を受ける必要があることを知ることになるだけである。薬物療法、認知行動療法が効果があるということが記述されていて、専門的な用語で記述され、患者がどうするかという患者向けの本ではない。