パニック障害・最近の研究動向
=パニック障害は認知行動療法により改善
パニック障害(PD)についての、最近の研究成果をみています。
熊野氏によれば、パニック障害の患者12人に認知行動療法(CBT)を行なって改善した11人の患者の治療前後の脳部位の活動を比較した。要点を列挙すると次のとおりである。
- 代謝低下がみられた部位=右側の海馬、左腹側前帯状回(ブロードマンの32野[BA32])、橋、小脳、左前頭葉から頭頂葉
- 代謝増加がみられた部位=両側背内側前頭前野(左BA9、右BA10)
また、治療前後の、糖代謝の変化率と症状の重症尺度(PDSS)の変化率との相関関係は
- 左内背側前頭前野の糖代謝の変化率とPDSSの第2下位尺度(予期不安・広場恐怖)の変化率に有意な負の相関が
- 中脳(PAG周辺)の糖代謝の変化率と過去4週間のパニック発作頻度の変化率に正の相関が認められた。(1)
次の指摘がある。
「CBTによって内背側前頭前野の機能が適応的に強化され、それが海馬の過剰な活動を抑制し、予期不安とともに広場恐怖を改善した可能性が考えられる。」(85頁)
「発作頻度とPAG周辺の糖代謝の変化率に正の相関が認められたことは、PAGが自発性の発作に関連を持つとするCoplanらのモデルに一致するものであり、このことに関連して、内背側前頭前野からPAGに抑制性の投射があることは一考に価する。」(85頁)
このことから、次のことを意味するだろう。
パニック障害は、認知行動療法(CBT)で改善するが、患者は、治療前に左内背側前頭前野の活動が低下しているが、治療によって、この部位の活動が高まる=不安感情の抑制や過去の経験にむすびつける予期不安(前触れ反応→過去の危機想起→近未来の危機予測)の抑制機能の向上だろう。
また、パニック発作は、PAG(中脳水道周辺灰白質)が強く関係していることが指摘されているが、認知行動療法の治療を行なうと、この部位の亢進が低下し発作の頻度が少なくなるのである。それは、どういう機序であろうか。前頭前野の抑制機能が直接PAGへの投射によるものか、扁桃体の感情活動が低下したことを通じて、PAGの亢進が減少するのか。
とにかく、パニック障害の患者は、前頭前野の機能が低下しており、扁桃体、PAGが亢進している。認知行動療法を行なうと、前頭前野が活性化して、症状が改善することがわかった。
さらに、課題は、改善するにしても、どの程度までの改善か、軽減か完治か。また、認知行動療法のうちでも、どのような技法が特に効果が高いかの研究が必要となる。
- (1)「画像研究・神経解剖学的仮説」熊野宏昭(「パニック障害」最新医学社、竹内龍雄編集)83頁。