PTSDと海馬
大きな災害、事件、事故に巻き込まれて、恐怖体験を味わったり、瀕死の目にあった人が、その出来事が終わってから、何カ月、何年も、精神的に苦しみ、身体にも症状が出て苦しむことがある。重要な症状は、次の3つである。
(A)
本人が暴露された外傷体験と類似した体験からの回避や外傷体験そのものの想起回避などの回避行動と
(B)侵入的回想(フラッシュバック)、及び
(C)再三の夢での外傷再体験、
交通事故にあうとか、幼い頃に遭遇した個人的な恐怖体験もそうであるが、大規模に発病しているのでは、地下鉄サリン事件、阪神淡路大震災、ハワイ原子力潜水艦沈没事件、ベトナム戦争の被害者、帰還兵などに多くの症例がある。
これまでに、PTSDの研究がすすんできて、脳の海馬との関係がわかってきた。海馬は、記憶のすりこみや取り出し、扁桃体(感情を起こす部位)の抑制機能がある。PTSDの患者の、海馬の容積が縮小しているという報告が多い。
PTSDの患者は、
- (A)災害事故などに遭遇した時以後のストレスによって、海馬が縮小したのか、
- (B)もともと海馬の容積が小さい人が、生命をおびやかされるような事件、事故、災害に遭遇すると、PTSDになるのか、
どちらであるかが、研究調査されてきた。最近の研究では、(B)であるという説が有力である。災害や強いストレス(がんでもPTSDが起きる)などがあったところで、幾人かが、PTSDになるのだが、もともと、海馬が何らかの原因で小さい人がPTSDになるということである。
しかし、薬物療法や心理療法が行われて改善している。心理療法は、認知行動療法や、EMDR(治療者の指を目で追いながら、外傷体験のイメージや好ましいイメージを思い描くという「眼球運動による脱感作と再処理法)がある。アメリカでは、マインドフルネス心理療法も、PTSDの治療に用いられている。感覚や症状など直接経験を無評価で観察してとどまる訓練が、前頭前野やセロトニン神経の抑制機能を増強させたり、ストレスや不快な症状への対処法の習得になる(海馬によって記憶され、うまく想起されるのだろう)のだろう。