PTSDも前頭前野の機能低下から
PTSD(外傷後ストレス障害)という精神疾患がある。大きな事件(殺傷、レイプ、など)、事故・災害(地震、交通事故など)、恐怖体験(がん告知などにもある)に巻き込まれて、瀕死の目にあったり、見た人が、その出来事が終わってから、精神的に苦しみ、身体にも症状が出て苦しむことがある。交通事故にあうとか、幼い頃に遭遇した個人的な恐怖体験もそうであるが、大規模に発病しているのでは、地下鉄サリン事件、和歌山カレー殺人事件、阪神淡路大震災、ハワイ原子力潜水艦沈没事件、ベトナム戦争の被害者、帰還兵などに多くの症例がある。JR脱線事故でも、報告されている。
「一般人口を対象とした全米での疫学調査によれば、PTSDの生涯有病率は、男性の5%、女性の10%」(1)であるから、多くの人が、発症する。大きな症状は、恐怖の再体験、過覚醒、回避/麻痺である。
「恐怖」は、感情であり、扁桃体が興奮することで起きる。感情を抑制するのは、セロトニン神経や前頭前野がある。前頭前野の機能は、思考、創造、他人とのコミュニケーション、意思決定、感情の制御、行動の抑制、記憶のコントロール、意識注意の集中、意欲、喜び、などである。この中に、感情の制御がある。
PTSDには、海馬の変調という研究報告もあるが、前頭前野の機能低下(感情の制御機能)というのも、有力である。
「扁桃体は恐怖条件付け反応をつかさどることが明らかにされているが、内側前頭前野は扁桃体と相互に神経線維を投射している。内側前頭前野における恐怖反応を制御する能力は、おそらく扁桃体への神経線維投射を通じてのものと考えられている。強い恐怖を体験した後にも良好に機能する能力を持った個体は、扁桃体反応性に対する内側前頭前野の制御力が強い可能性がある。」(2)
自己洞察瞑想療法(マインドフルネス心理療法の一種)の技法は、呼吸法を利用して、感覚等への注意観察法、注意(意識)の分散法、不快事象の徹底受容法
などを用いて、背外側前頭前野を活性化させ、扁桃体、内側前頭前野の機能抑制をねらっているので、PTSDも、自己洞察瞑想療法で、軽減可能である。
もちろん、外傷の発生の直後から発症前に実習すれば、PTSDの予防にもなる。フラッシュバック、不安、恐怖が起きても、分散注意、徹底受容で、克服する。
(注)
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(1)「Clinical Neuroscience」(月刊 臨床神経科学)、中外医学社、Vol.23、2005/6、688頁。この稿は、「外傷後ストレス障害(PTSD)と前頭前野」飛鳥井望、東京都精神医学研究所。
- (2)同上、689頁。