精神医学・「自己洞察瞑想療法」
外傷後ストレス障害(PTSD)
大きな事件、事故に巻き込まれて、瀕死の目にあった人が、その出来事が終わってから、精神的に苦しみ、身体にも症状が出て苦しむことがある。交通事故にあうとか、幼い頃に遭遇した個人的な恐怖体験もそうであるが、大規模に発病しているのでは、地下鉄サリン事件、和歌山カレー殺人事件、阪神淡路大震災、ハワイ原子力潜水艦沈没事件、ベトナム戦争の被害者、帰還兵などに多くの症例がある。このPTSDの予防や治癒に、呼吸法を用いたカウンセリング(自己洞察瞑想療法)も有効であると思われる。
PTSDの症状
PTSDについて、次の説明がある。
「患者は、以下の2つが共に認められる外傷的な出来事に暴露されたことがある。
- (A)実際にまたは危うく死ぬまたは重傷を負うような出来事を、1度または数度、または自分または他人の身体の保全に迫る危険を、患者が体験し、目撃し、または直面した。
- (B)患者の反応は強い恐怖、無力感または戦慄に関するものである。」(1)
「またPTSDの症状の特徴は、
(A)本人が暴露された外傷体験と類似した体験からの回避や外傷体験そのものの想起回避などの回避行動と
(B)侵入的回想(フラッシュバック)、及び
(C)再三の夢での外傷再体験、
という現象にあるが、特に(B)(C)を特異的なものとしている。」(2)
次のような態度、行動の幾つかが起こり(3)、重要な活動への無関心、不参加などから、社会生活に不自由をきたす。(「回避」と呼ばれる状況が多い)
- その出来事と関連した思考、会話を避けようと努力する。
- 出来事を想起させる活動、場所、人物を避けようと努力する。
- その出来事の重要な側面を想起できない。
- 重要な活動への無関心、不参加。
- 孤立、疎遠の感覚。
- 感情の範囲の縮小(愛の感情を持つことができない、など)
- 入眠困難、睡眠維持困難。
- 怒りやすい、易刺激性。
- 集中困難。
- 過度の警戒心。過剰な驚愕反応。
PTSDの治療
治療は薬物療法として、抗うつ薬が投与される。
「治療についてもいろいろの報告があるが、絶対というものはない。
薬物療法では、抗うつ薬特に選択的セロトニン再取り込み阻害薬SSRI系が有効であるという。」(4)
しかし、これは、精神療法が重要である。
「また精神療法は不可欠な治療であり、症状を引き起こした外傷体験を、何らかの形で表現し徐々に客観視し得るように援助していく方法が大事とされている。そのために集団療法的に系統的脱感を行う方法や、フィラッティングと呼ばれる行動療法的に慣れの操作を行う方法、あるいは、治療者の指を目で追いながら、外傷体験のイメージや好ましいイメージを思い描くという「眼球運動による脱感作と再処理法EMDR」が有効だという。」(5)
ながびくことも
しかし、治療しても、うまく治癒しないこともある。
「多くは回復が期待できるという」(6)が、「しかし筆者の数少ない体験では、なかなかうまくはいかない場合もある。他にも、もともと精神的な問題を有するものは予後が悪い、という意見もある。」(7)
「現在では生物学的な特徴も検索されつつあるとはいえ、PTSDの診断基準や予後を含め、実態が未だ充分に検討解明されていない。」(8)
「自己洞察瞑想療法」を用いたカウンセリングもこころみる
こういう現状であるから、PTSDに悩む人が、充分な療法を受けられず、治癒しないようであれば、「自己洞察瞑想療法」をこころみてみる価値がある。このカウンセリング手法は、認知行動療法の一種であるが、それに、呼吸法、運動や自己洞察法(感覚等の注意観察の手法、徹底受容法、機能的行為への意識を向ける手法など)を多用している。抽象的な説明を理解するのではなくて、呼吸法、運動および自己洞察法などを実践する課題を行うからである。
こういう心の病気(或いは心身症)の人が、治すには、初心者向けの呼吸法や自己洞察法をしてもらうのがよい。ゆっくり呼吸法を行いながら、
直接経験の観察法、不要機能抑制法、徹底受容法などによって、視聴覚や感情などに注意を集中して観察しとどまり、言葉による回避観念や行動を抑制するスキルを向上させる。
想起したもの(過去の思い、不安感情など)を、よく観察し、回避ではなくて(過剰な反応をしないで)、冷静に、目前の価値あることに注意を向けるように練習する。また、不安などの感情と、思考、情動性自立反応、症状発作、等は別物であることなどの心のプロセスを体験的に観察することを繰り返して、心を目的行動に転じて、今なすべきことに集中できる(マインドフルネス)ようにも練習する。
自分の障害を客観的に見ることができるようになると、症状も苦悩も軽減する。
PTSDの場合、予期不安、回避する行動・場所がある場合、呼吸法が十分に実践できるようになり、不安やフラッシュバックなどの心理状況の生滅を真剣に洞察して、危険ではないことを理解して自信がついてきたら、やさしいことから、現実場面に出ていく治療法(エキスポージャー法)を行う。一人でできなければ、家族が同行して実行する。認知療法で行われているように、そのクライアントの場合について、「不安階層表」を作り、やさしいものから実行していく。
(注)
- (1)櫻井浩治、村松芳幸「外傷後ストレス障害」(「診断と治療」2001 Vol.89 No.5「ストレスと疾患」診断と治療社、2001年、820頁。)ただし、機種によって文字化けを起こす○で囲まれた1,2の番号をA,B,C変えました。
- (2)同上、823頁。ただし、○1,2.3番号をA,B,Cに変えました。
- (3)同上、820頁に記載の項目から一部を抜粋。
- (4)同上、823頁。
- (5)同上、823-824頁。臨床精神医学講座S6「外傷後ストレス障害(PTSD)」中山書店、2000年、による。
- (6)同上、823頁。
- (7)同上、823頁。
- (8)同上、824頁。