強迫性障害

 手洗い、掃除、長い入浴、スイッチを切ったか、ガス栓を閉めたか、鍵を閉めたか、宗教的なおまじない行為を、何度も確認する行為を繰り返す。そのために、たとえば、外出しようとする時や職場で、時間を浪費(一日1時間以上)して、仕事、学業、社会的活動、他者との人間関係を障害する。このような強迫性障害がある。
 また、強迫行動が、長期化して、儀式化していて、浪費時間は、一日1時間以内になっていても、仕事の種類、社会生活が著しく制限されていれば、完治しているわけでもない。

強迫性障害

強迫性障害の症状

強迫性障害の病因

 病因として、3つの説明がある。強迫神経症として取り上げられていた時期には、社会心理的要因が中心であったが、しだいに多くの要因がからみあった病態であると考えられるようになった(1)。

性格傾向

 性格傾向も、この障害の形成に影響するとみられている。
 しかし、強迫性格は、病前性格ではなくて、強迫症状が人格に相互影響しているともいわれる。また、病前性格は必ずしも強迫性格とはいえないとも考えられるようになっている(5)。

環境や身体の変化や心理的葛藤

 強迫性障害はさまざまな要因が複雑に関係して生じる疾患であると考えられている。そして生物学的研究により、多かれ少なかれ身体的基盤の脆弱性があるところに、環境や身体の変化や心理的葛藤をきっかけとして、発症することも多いと報告されている。
 「心因として、強迫性格などの性格因に、環境の変化、精神的過労、心理的葛藤、社会文化的要因などがはたらき、身体因として、身体疾患、身体的過労、妊娠、出産、月経や、思春期、更年期、老年期などの年齢的発達過程に関連した体内環境の変化などが加わった場合に、普段は代償されていた体質的脆弱性が進行、固定して、OCD(強迫性障害)の症状が出現すると考えられる。」(6)

強迫性障害の治療

セロトニン神経が感情、衝動を抑制できなくなって

 運動をしなくなった社会環境によって、セロトニン神経が弱って、感情、衝動を抑制する力が弱くなっていることも、強迫性障害の背景にあるであろう。
 東邦大学医学部の研究によって、坐禅や腹式呼吸法がセロトニン神経を活性化させ、うつ、怒り、不安などの感情を抑制する力、ストレスに対処する力ができるという(7)。セロトニン神経は、不安、衝動の抑制に関与しており、セロトニン神経を活性化させる坐禅などが、強迫性障害にも奏効する可能性がある。

自己洞察瞑想療法

 強迫性障害に対しては、認知行動療法が効果があるように、同様の心の病気の構造のモデルを想定する自己洞察瞑想療法でも、強迫性障害への治療を提供する。
 カウンセリングは、この障害にある、固定観念や認知のゆがみを修正すること、思考・感情・衝動などを洞察する力を養うことが焦点となる。特に、不安および回避行動への衝動の生起、消滅の実態を知ること、それを静観できる力、行動への抑制力を作ることである。一部の患者に対して、抗うつ薬がきくように、この障害は、セロトニン神経が関係している。薬物は、セロトニンの再取り込みを防ぐという見かけ上の活性化の効果によるが、腹式呼吸法や自己洞察法による固定観念のゆがみの修正は、見かけ上ではなくて、セロトニン神経全体の活性化をもたらす効果が期待されるからである。
 また、前頭前野のワーキングメモリ機能の低下も推測されている。
 カウンセラーの指導を受けながら呼吸法や自己洞察法(注意集中法、不要機能抑制法、徹底受容法など)を行いながら、不安や回避への思考・衝動の心を洞察する。カウンセリングおよび、自宅での実践によって、感情や衝動を明確にしたり、心に関する見方を種々学び、固定観念と認知のゆがみを修正する。自己洞察法によって、感情、衝動を自分の心の上で観察し、それを静観したり(暴露法)、抑制したり、心を転じたりする「自己洞察瞑想法の訓練」を行う。カウンセリングがすすんだ段階で、段階的に強迫行為を中止していく手法(反応妨害法、段階的タスク)を行う。確認したくなる観念や、強迫行為を起こしたくなる衝動の心を、できるだけ静観して観念、衝動が消えていくことを心の眼で眺めている(呼吸法や自己洞察法で、それを繰り返し訓練してからであるから、たいていのクライアントが実行できるはずである)。また、依存が起こらないもの(呼吸や、眼の前にある草花、仕事など)に心を転じる。自己洞察法による心の洞察により、前頭前野やセロトニン神経の活性化により、少しづつ高い段階の行動を試みる。
 眼の前の草花、仕事などというのは、その時々にあるものであり、わざわざ「特定のもの」を持参するようなことをして、それを取り出してみるということではないから、そのようなことをしないように注意しながら指導する。そうなっては、別の強迫行動に変化したにすぎない。
 自己洞察瞑想療法で「心を転じる」というのは、依存、強迫によらないで、自己洞察がすすんで、強迫観念、観念そのものの有り様が十分に理解されて、観念は、思考であり、思考は強迫なしに中止できる、放置すれば消えるということを洞察した上で、強迫によらず、積極的、建設的に、価値あるものに「心を転じる」ということを意味する。
 このような理由で、強迫性障害の治療には、ただ坐禅(多くの坐禅会のしかた)させるだけでは十分な効果が期待できない。定期的にカウンセラーとのカウンセリングを行う必要がある。
 自己洞察瞑想療法は、呼吸法や自己洞察法(注意集中法、不要機能抑制法、徹底受容法など)という固定観念を修正する自己洞察法、心(不安や回避観念)の生起を静観したり(暴露法)、回避への思考、行動、衝動を静観(反応妨害法、徹底受容法)する心を洞察して、現実にそれができる手法を用いる点で、他のカウンセリングでも治癒しなかったケースが治癒する可能性がある。さらに、自己洞察力の向上により、ストレス全般への対処能力が高まり、他の心の病気(うつ病や心身症など)などへの耐性が強まるであろう。

成功しないことがある
 他の障害が並存しているために、基本的な呼吸法などの課題を実行できないクライアントには、特別の呼吸法や注意集中法や認知的手法を試みる。それでも、成功しない場合もある。
 強迫性障害(および強迫性パーソナリティ障害)の治療においては、治療者とのカウンセリングの場において、患者が不安を強めることが生じて、そのために患者が治療者に怒りを覚え、時間がたってからも「恨み言」を残す場合がある。そのような、「怒り」も「恨み」も常にあるものではなくて、生起、衰弱、消滅するものであることを、そのカウンセリングの場で、自己洞察するように指導する。そのような自己洞察に失敗するクライアントの場合、クライアントの怒りがやまず、面接に来なくなることがある。これは、治療が成功しない結果となる。こういう結果にならないように、強迫性障害(および強迫性パーソナリティ障害)を治療するカウンセラーには、このような配慮が必要である。
 自己洞察瞑想療法は、「不安」ばかりではなくて、怒り・恨み、よくうつ、自己否定、自己嫌悪、他者嫌悪、後悔など、苦悩をもたらす心のすべてを自己洞察することを指導するのであるから、本当に治したいという患者は、治療者への怒り、恨みも、自己洞察するようになり、副作用としての悪感情を捨てて、本来の「不安」に、真剣にとりくむであろう。