パニック障害の再発
薬物療法は、パニック障害に一応効果があるが、薬物療法だけを受ける人は、長引いたり、再発しやすいと、パニック障害に詳しい精神科医の共通の研究成果である。(1)
パニック障害は、長引くことが多い。竹内氏は、欧米の例で、治療を開始して6年から10年後でも不変または悪化の例が20〜30%とあることを紹介している。
「米国精神医学会によるDSM-VIの記述では、欧米で行われた主な調査から、パニック障害の経過を次のようにまとめている。すなわち、治療開始後6年から10年後の転帰は、
良好 | 30% |
症状はあるが改善 | 40〜50% |
不変または悪化 | 20〜30%
|
となっており、だいたいにおいてわれわれの臨床経験とも一致する数字である。」
(2)
竹内氏は、心理療法のほうがすぐれているとする研究成果や薬物療法との併用が有効とする研究を紹介している。そして、こういう。
「薬物療法でも、心理療法でも、治療を受ける際は充分な治療を受け(薬物療法療法なら充分な量を充分な期間服用して、暴露療法では治療を全うすることにより)十分な改善を得ておくことが、その効果を維持するうえで重要ということいなる。(3)」
熊野宏昭氏は、パニック障害について、心理面の原因を種々の研究者の成果を紹介して、パニック障害は認知のゆがみが関与しているので、認知のゆがみを修正する認知行動療法がすぐれていることを指摘している。特にバーローらの研究を紹介して、こういう。
「この研究結果からは、二つの重要な示唆が得られる。それは、パニック発作に関しても薬物でなく認知行動療法単独で改善可能である(改善のスピードは遅かったが)という点と、薬物を使った場合、有意に再発率が高いという点である。前者はパニック発作の維持にもたしかに学習性の要因が絡んでいることを示し、後者は薬物で発作を抑えてしまうと認知行動療法で障害の克服に必要な学習過程が十分に起こらなくなる可能性があるということと、長期予後という観点からは心理学的治療にも見るべき点があることを示している。」(4)
岸氏は、パニック障害でもうつ病でも心理療法の重要性を指摘している。心理療法を併用しないで薬物療法のみを用いる「身体科医」による治療では改善率が低いという。
「パニック障害だけでなく、精神科疾患(たとえば大うつ病)では非精神科医への受診が多いと以前よりいわれている。また、「身体科医」のみで精神科疾患を治療すると、精神疾患の改善率が低いことも知られている(5)。
うつ病もパニック障害も、病中にも発症にも認知のゆがみが大きく関与している。それにもかかわらず、認知のゆがみについて何も助言せず薬物で治すという方法は、患者は発病の心理もわからず、治癒した理由もわからず、治すのであり、その後の、職場復帰過程や、ライフイベントで、容易に再発してしまう患者が多いことになる。
再発防止のためには、心理療法で治すか、併用した方がよい。パニック障害は、治すには徹底して治すべきである。広場恐怖など、何かを回避する症状が全くなくなるまで治療した方が再発を防ぐということである。
自己洞察瞑想療法も、心理療法の一つである。認知のゆがみ、信念のゆがみを徹底的に自己洞察させることによって、治癒、再発予防を目標とする。
(注)
- (1)
竹内龍雄(帝京大学医学部附属市原病院精神神経科教授)「パニック障害とは何かー経過と見通し」(「こころの科学」107号、日本評論社、24,27頁。)
熊野宏昭(東京大学医学部附属病院心療内科助教授)「パニック障害とは何かー心理面の原因」(「こころの科学」107号、日本評論社、35,38頁。)
岸康宏(ミネソタ大学神神科)「パニック障害とは何かー救急外来とパニック障害」(「こころの科学」107号、日本評論社、43頁。)
- (2)同上、竹内龍雄氏、26頁。
- (3)同上、竹内龍雄氏、27頁。
- (4)前述、熊野宏昭氏、38頁。
- (5)前述、岸康宏氏、43頁。