支援を求めない人たち(3)

 子どもがいじめや学業不振などによって、うつ病になったらしい後で、つらさを親や教師 に言わずに、支援を親にさえ求めずに、自殺していくことがある。なぜ、親に言わないのだ ろうか。
 大人でも、それはある。政治家、ビジネスマン、教師が、「これから死ぬ」と、配偶者に も言わずに、一人で悩み、自殺している。死ぬほど苦しいのであれば、なぜ、配偶者に言わ ないで自殺するのか。
 一つは、うつ病や自殺念慮についての理解がないこと。2つ目は、「助けて」と言えない心になっていること。

「死にたいほどつらい。助けて」と言えない心

 介護疲れによる自殺がある。介護関係者や、地域の人に支援を求めれば、死なずにすむか もしれない。支援を求めず、疲れて、うつ病になり、そのうちの幾人かが自殺したり、心中 する。
 「自分の苦しみを周囲にもらさない人」「支援を求めない人」、どうして、こういう人が 多いのだろうか。
 一部は、次のようなことがあるとされる。
 「自分の苦しみを周囲にもらさない」「支援を求めない」ということは、その人が小さい 頃から身につけた行動パターンである。育てられ方でそうなった。保護者が厳しすぎて感情 を表せなかった。泣き言をいったり、悩みを打ち明けると叱られた。親の機嫌をそこなうこ とをすると厳しく責められた。親が子どもを否定する言葉をいう。ほめられた体験がほとん どないという親の愛情不足。両親の不和で緊張の中にあって、悩みなどを相談できなかった 、など。親が忙しすぎたり、親が心を病んでいて、ストレスを与えていた。親のストレスの はけ口とされて、つらい思いをしていた。親が病弱で甘えられなかった。悩みがあってもいえなかった。つらさを周囲にもらさないが、幸福感はなかった。それで、自己肯定感がない。
 こうして、自己肯定感のない子どもになった。 自己表現できない。内向的、はずかしがりやの人間となる。家庭で嫌なことがあっても、嫌 だといえない。家庭でも、叱られないよう警戒して、びくびくとしている。緊張している 。
 不幸なことに、学校でいじめなどがあっても、学校のクラスメイトが無視、傍観する、教師が本気で助けてくれないのを見て、その心は、一層、強化される。
 こうして、自尊心なく、自信なく、信頼できる人、助けてくれる人を持たない心になっ た。感情を表現しない、反論しないという傾向が身についた。救いを求めても助けてくれな いだろう、しかえしされるのが怖いと思う。学校で、いじめられても、反撃しない、救いを 求めない。
 ほかの原因でも、若いうちに、内向的になる人もいるだろう。また、社会に出てから、激しいストレス、不幸な環境によって、不安過敏になる場合もある(PTSDなど)。
 臆病、警戒心、不信感、緊張をかかえた傾向が克服されないままに成長していく。常時、自己不信、他者不信、不安、軽いうつ状態にあるから、大学で 挫折する。大学から就職する時に挫折する。就職しても、臆病、警戒心、不信感、緊張をか かえた傾向によって、心の病気になりやすい。結婚しても、理解のない配偶者、きびしい配 偶者だと、また感情や悩みを表現できずに、うつ病になる。子どもができると、育児うつ病 になり、相談できない、支援を求められない。一人で悩み、育児うつ病となり、夫にも言わずに、子どもと無理心中する。
 やさしい配偶者にめぐまれても、臆病、警戒心、不信感、緊張をかかえた傾向のために地 域にとけこんでいない。友達がなく、二人でひっそりと暮らす。せっかく、老後まで生きながらえても、 どちらかが、がんなどの病気になったり、介護状態になって、悩んでも、小さい頃からの傾向で、近所や公的機関に助けを求めない 傾向がある。介護保険のサービスを受けても、時々来てくれるヘルパーにも、うつ状態の苦し さを表現しないし、自殺したくなっていることを打ち明けない。民生委員や、医者や看護師にも自殺念慮を打ち明けない。
 こうして、小さい頃に、臆病、警戒心、不信感、緊張をかかえた傾向が克服されないまま に成長していくと、うつ病、自殺のリスクがいつもあることになる。自殺の防止のためには、こういう ふうに、自分の悩み、自殺念慮を言わない人がいるということを知っていて、応対しなけれ ばいけないのだろう。こういう人たちには、広報紙などで、相談機関があります、といって も、出てこないだろう。臆病、警戒心、不信感があり、助けてくれない、自己表現できない 、内向的、内気なためである。支援者側から積極的に介入していくタイプの支援でないとい けないのだろう。
 うつ病のカウンセリングも、私どものような独立のカウンセリング所にはいけないだろう 。介護サービスを提供する時に、うつ病の教育をするとか、心療内科や<精神科に通院してくる患者さんや、がん患者および、その配偶者に、自動的にカウンセリングするような体制 にしないと、カウンセリングに自分から出ていくことはむつかしいだろう。 うつ病、自殺の減少のためには、地域で、そうした仕組みを作っていくのがいいのだろう。 。
 そして、長期的な自殺防止の対策としては、助けを求めないような心に家族、学校がしないように、小さい頃の家庭環境を整える、保護者を教育することが必要である。だが、その際、教育機会があっても、参加しようとしない大人をどうすれば、いいのだろうか。
 支援を求めなくなる心では、長い人生上のどこかで、大きなストレスを受けて悲劇が起きる可能性が高い。若い頃に治したほうがいい。形成されるのは、小中学の学童期だから、治すのは、中学、高校、大学生など若い頃がいい。これなら学校で教育機会、カウンセリング機会を設けることができる。ただし、親が悪い、家庭が悪い、という説明では、うまくいかないでしょう。そういうふうに責められると怒りたくなるのですから。
 次の図は、小中学生の「キレ」る心。この時代に、「キレ」ないで、抑圧したままでいくと、一部の人は、上記のような「支援を求めない」心になっていく。
 (もちろん、これは、一部です。ある見方です。)