自殺念慮への対策=学習によって結合した自殺念慮の解消
自殺念慮への対策
うつ病は、対人関係でも起きる。いじめ、虐待、暴力、セクハラ、夫婦の不和、親子の
不和、・・・。
種々の人間関係の日常で、「思いどおりにならないこと」個人の「正当性の否認」のよ
うな状況が起きると、大きな感情(不満、怒り、など)が起きる。この感情を制
御できるか、できないかが焦点となる。
感情については、わかっているようでわかっていないものである。中高生や、
心の病気になる人や、パートナーや家族を心の病気に追い込む人には特に、その傾向があ
る。感情について、よく理解することが、職場、学校、家族における個人間の、
対立、無視、軽視による病理を改善することになる。マインドフルネスやアクセプタンス
の実践(スキルの体得)は、こういう感情について正確に洞察できるようになる
ことも含まれる。感情の制御の困難が、人間関係をそこなっているので、感情の正確な洞
察は、自己の問題解決や、他者の問題の理解の基礎になるからである。
わかっていない自分の感情
感情について、次のように述べられている。
「簡単なことのように見えるが、直前の刺激と増加する反応とを結びつけて考えること
ができていない人も多い。一次的情動と二次的情動を正確に識別することは、思いの外困
難な所業である。しかし、これができないと人は往々にしてすぐに相手を非難し、情動的
に激して昔の問題をほじくり返し、さらには相手の動機や人格、状況の評価なども誘発刺
激と捉えて激昴してしまうのである。」(256頁)
感情を正確に理解していないと、子ども、部下、家族が悩む時にも、共感できずに、誤
った応対をして、対話が断絶して、家族の心の病気や、ひきこもりを長引かせる原因にな
ることもある。
「生起した情動を正確にラベルづけする能力は、効果的な応答のために必須の条件であ
る。」(257頁)
「もし情動がでたらめにラベルづけされてしまったら、人は役に立たない目標を闇雲に
追い求めること(「誤った」情動に応答すること)になるだけではなく、相手も同様に誤
った方向に導いてしまい、役に立たない応答(防衛的・批判的になるか、気づかぬうちに
相手の正当性を否認するような応答)をさせてしまう。」(257頁)
感情の正確な洞察
一次的情動・二次的情動
「状況に的確であり、生物としての基本的な情動であり、偽らざる気持ちを表し、かつ
、種を存続させる上で効果的に機能する情動的応答を、一次的情動と呼ぶ。
他方、一次的情動に反応する形で生じる情動(学習性であり、しばしば逃避指向的である
反応)は、二次的情動と呼ばれる(Greenberg & Safran, 1987; 1989)。
二次的な情動反応は、特にそのカップルがある話題について過去に喧嘩をしたことがある
ような場合には、一瞬にして火がつき、一次的情動を凌駕してしまう場合がある(
Fruzzetti & Jacobson, 1990)。」(257頁ーA)
「深い対立の中で生じる怒りは、二次的情動である場合が多い( Fruzzetti &
Fruzzetti, 2003; Fruzzetti & Levensky, 2000)。パートナーに対する評価は怒りを募ら
せる。そして、高められた怒りはよりネガティブな評価を生み出すことになる。このプロ
セスはパートナーに対する起爆剤としても機能し(評価される、怒りの標的になるなど)
、カップル研究においてよく知られるネガティブなエスカレーションのプロセスを発動さ
せることになる(例えば、Weiss & Heyman, 1990)。人間関係とそこに含まれる個人にと
って、不幸な結末をもたらすのである。」(257頁)
「二次的な情動反応は、学習性であり、学習が進むにつれて自動化し(例えば、
Greenberg & Safran, 1987)、評価に媒介されると考えられる。評価は次々と情動を喚起
させる。」(257頁)
マインドフルネス(無評価で観察しつづける)やアクセプタンス(受け入れる)は、こ
れを阻止させるスキルである。
「評価から解き放たれるためのマインドフルな練習は、一次的情動に気づき、識別し、
ラベルづけする能力を高める上で有効である。」(257頁)
「マインドフルネスでは、常に一次的情動に注意を焦点化させ、二次的な情動応答を無
視するか、(二次的情動に一時的に注意を奪われたとしても)一次的情動に注意を戻すこ
とで、二次的情動をやり過ごすことを重視する。」(257頁)
学習によって結合した自殺念慮の解消
一次的情動(感情)・二次的情動については、自殺問題の解決にも、重要な問題を示唆する。「
自殺しないで下さい」という説得をしても、ある時、「気分が非常にすぐれない」朝には
、自動的に(学習の結果)、自殺念慮が再び生じるようだ。以前に、気分が悪くて、治療
しても、治らず、絶望することろまで考えて、「死にたい」と何度か、考えた人は、「気
分の悪化」→「自殺念慮」が学習されていて、少々の論理的な説得では、この「自殺念慮
」の生じることを消去することは難しいようである。実行するかどうかは別であるが、希死念慮、自殺念慮は起きる。
抑うつ気分の悪いことのほかに、感覚〜思考〜感情〜身体症状/精神症状〜のどれから
でも、自殺念慮に結合するようになる。だから、うつ病がひどくなっている人は、朝、自
殺する思いがなくても、昼に、ちょっとした感情的な出来事(たとえば、その日も、また、いじめられた)が起きたり、むつかしい状況が起きた時(たとえば、事故、病気になった)に、死にたくなってしまい、実行することが起きる。
うつ病が完治せず、ながびいている人は、あぶない。以前に、自殺したくなるほどに、
ひどくなった人は、出来事から感情(情動)、自殺念慮までが学習されている。ちょっとしたこと
で、情動をふかめて、自殺念慮まで出てくることが容易になっている。自殺念慮が起きる
まで至った人は、長引かせず、完治に向けての対策をとるべきである。学校や職場や家族
ができることがある。支援中断のままにせず、問題をよく理解して、適切な支援、治療を
受けさせるべきだ。
効果的に、自殺防止するには、一度だけの説得では終わりにせず、たびたび、生起する
学習された自殺念慮で、実際に自殺を決行しないような支援が必要であるようである。一
時的な説得では消去されない学習された自殺衝動への心理的な改善対策、これは、自殺防
止、自殺の減少のために、重要な研究課題だと考えている。
アクセプタンス、マインドフルネスの実行は、こういう効果がある。
感覚、思考(自殺したくなる思考を含む)、感情(情動)、身体反応、衝動(自殺への
衝動を含む)気分などを正確に観察して、後者へのステップへの関連づけをやめる訓練を
する。過去のつらい出来事(一時的情動)が想起された時に、それに関連した自動思考をつづけていると、感情(情動)がもえあがる(二次的情動)。こういうことも、マインドフルネスの訓練では、軽減される。過去を想起した時、ただちに解放して(「注意解放」)、目前のことに注意を向ける(注意集中法)訓練を重ねる。こうして、2次的情動が少なくなる。
そういう訓練をしても、治らないうちは、「気分の悪さ」は、起こる朝があるから
、「死への思考」の関連づけをやめる。うまくできずに「自殺念慮」まで出てきても、そ
の気分、念慮をそのままに観察するのみ(自覚)か、それを観察し(注意を
向け)つづけるのをやめて、仕事、運動、呼吸法を行うなど注意を他の目前のものに移し
たり、何か効果ある行動に移る(意志作用)。気分の悪さ、自殺念慮も止めるとか、おさえつけるこ
とはできないことを理解して、受け入れて、呼吸法や目前のものに注意を向けたり、行動
に移る。(周囲の人、公的機関、NPOなどに支援を求めることや、相談することも、効果ある行動の一つである)
効果がある行動(呼吸法、運動、生活スタイルの修正、支援者から助言を受ける、など)の実践を続けながら、「自
殺への衝動」をこのような方法で、克服していけば、新たなストレスが持続していない場
合には、うつ病の症状の全般が改善していくと共に、やがて、気分の悪さが改善して、治
っていく。当然、自殺念慮は消える。ただし、一度、自殺念慮が起きるまでに重症化した
うつ病が、一度治っても(寛解)、短い期間の後に、再発すると、その衝撃で、過去に学
習された自殺念慮が起きるのが早い。だから、うつ病は、一度軽くなったら、5年間くら
い、再発しないように心がけることが大切である。復帰したら、仕事の質や量において、
無理しないことが重要だ。
ストレスが持続している場合(例えば、過労、いじめ、家族間の対立などが持続してい
る)には、簡単にはいかない。本人が、ストレスへの対処法を習得するほかに、ストレス
を与える人、組織への働きかけで、ストレスを軽減、停止させることも必要である。
こういうことを理解しておくべきである。学校の教師、親、職場の管理者は、難題をかかえているかもしれない、ストレスがありそうだ、悩みがちになっているようだという人が、どこまで「うつ」を深めているのかを知っておかないと、うつ病が深まっているならば、ちょっとした出来事が自殺のひきがねになってしまう。うつ病、自殺念慮は、早期に自覚して、治療、支援を受ける
べきだ。本人も、そのことを理解しておくべきだ。自分では「これしかない」と思うのだが、他の人は、種々の解決策を考えることができる。若いうちから、うつ病、自殺防止の教育が必要である。そして、結婚した人、親となった時にも、再度、勉強が必要である。
( )は、下記文献の頁。
「マインドフルネス&アクセプタンス
ー認知行動療法の新次元ー」
編著=S.C.ヘイズ、V.M.フォレット、M.M.リネハン
監修=春木豊 監訳=武藤崇、伊藤義徳、杉浦義典
ブレーン出版、2005/9/10