見落としがある「自殺しないで」の対策
「こころ」が背景にある種々の難問が沸騰しています。教育の根幹に関わる「こころ」に起因す
るために、短期的に改善されるものではなくて、自死が社会問題になっています。
大切な視点が理解されていない自死防止の意見
有識者が「死なないで」「未来がある」と訴えたり、電話相談やメール相談があると啓蒙していますが、大切な
視点が欠落しているように見えます。
一言でいえば、うつ病の予防と、うつ病の治療法です。
「大うつ病エピソード」という診断基準があります。うつ病には、自死念
慮のほか、重い精神機能の変調があります。いじめや悩みによって、うつ病になってしまった場合、生命の大切さのよびかけや、数度の電話相談などでは、大うつ病エピソードとしての自死念
慮は消えがたいのです。自死念慮のほか、実は、種々の精神機能が阻害されて、別の人格になった
ように感じるのです。たとえ、いじめが止まっても、ストレスのある仕事から離れても、「自分は
とんでもない人格になってしまった。」という感覚があるのです。論理や理屈ではありません。現実の症状です。睡
眠障害、記憶力、思考力、注意集中力の阻害、気分の悪さ、人と会話できない、など、ひどい人格
の変容です。そのようなことがあるので、勉強は出来ない、仕事はできない、このおかしい人格は
治らないのではないかと感じられて、自死したくなるのです。こういう重い症状にある人が「死に
たい」といった時、「死ぬな」と説得されても、そういう症状が消失することはないのです。治療
しないと症状が消えないのです。新たなストレスが加わらなければ、長期間かかって治癒していくこともあるでしょうが、それも知らない場合、
いじめなどの対象から離れても、どこにいても、もはや、どこに
も安住の場所はないのです。自己自身の存在そのものが逃げるべき対象となってしまうのです。
いじめられうつ病、いじめられ自死とは別な心得が必要
いじめられて「死にたい」という子や、親にも打ち明けないで、死ぬ子があるのですが、「親
に心配かけたくない」というだけではない、苦しい精神状況があります。「死にたい」ともらす人が
いたら重症ですから、ただちに、うつ病の治療が必要かどうかの緊急行動に移らなければいけないと思います。
学業の方が後退しますので、ふみきりにくいでしょうが、命には代えられません。
また、相談などで、救えるのは軽い症状の人だけであり、重い症状の人は、その症状は消
えませんから、自死の危険が持続しています。
各種の相談は、
今後も大きな役割をはたすことは確実です。深刻な人だと感じたら、休
学して、治療するように助言もできます。だから、相談は重要な役割を果たします。しかし、治療法が医師による薬物療法しか受けられない地域が多いのが実情です。
深刻な状況にいる子どもがいるでしょう。「死にたい」とまでなっているのは、うつ病が相当、深刻
になっている可能性があるのに、その治療につなぐことができません。子どものうつ病を治すところ、心理療法を提供するところが少ないのは、困った状況です。
うつ病の重い症状は、治っていないままだということです。学
校の教師も、そこを理解していない。いじめられていると訴えても、うつ病の深刻さを理解し
ようとはせず、その時だけの助言ですませて、治療を開始するようには、助言しないのが、現状の
学校のいじめ防止対策、メンタル・ケアのありようでしょう。
残念なことに、抗うつ薬を服用するという薬物療法では、治らない人もいます。傷
ついた脳機能(前頭前野など)がなかなか回復しないのです。治す技術が遅れています。
だからこそ、休学しても復帰できない生徒(大人も休職しても復職できない人)が多く、自死もなくなりま
せん。自死防止運動は、容易なことではありません。相談機関があっても、医者がいても、うつ病
が深刻になったら、治らず自殺する人が多いのです。だから、いじめの初期のうちに発見して、
大うつ病にまで陥らない前に、救済しなければいけない。ここが、「いじめられうつ病」「いじ
められ不登校」の予防対策です。とにかく、いじめを早期に発見して、そえ以上のいじめの拡大防止対策をとる。多くの識者が
議論しているいじめ対策は、この部分のようです。うつ病の配慮がない。
うつ病は薬が効かないと、やっかいです。薬が効かない場合、簡単ではありません。日本は特
に、心理療法が遅れていて、毎年、自死が多いです。
うつ病は薬物療法でも、既存のカウンセリング、心理療法では治らない人が多い。薬で治らないうつ病の心理療法を開発して、全国どこでも受けられる体制にしなければいけません。
(7/2012)