自殺防止の取り組み

 =秋田県藤里町 身近に相談相手 うつ防ぐ
身近に相談相手 うつ防ぐ うつ状態の人と話を聴く人を演じるロールプレーを行う町民たち(秋田県藤里町で) 秋田県藤里町で自殺予防活動に取り組む住民団体「心といのちを考える会」では昨年1月、会員たちが学習会で、寸劇形式の「ロールプレー」を体験した。  うつの人、話を聴く人を交代で演じながら、適切な対応の仕方を学ぶのだ。  うつの人「何か、最近、落ち込んでるんです。どうも毎日つらくて……」  対応A「えっ、そうなの。でも元気出さなくちゃ。しっかりしてよ。だれでもそういう時あるから」  対応B「落ち込んでいるんですか……。確かにつらそうですね」  Aが悪い対応の例、Bが良い対応の例だ。  「うつの人は、励まされると、苦しい思いを分かってもらえないと感じる。逆につらさをしっかり受け止めてもらうと、自分の悩みを客観視できるようになり、心を整理できるのです」  台本を作った笠松病院(秋田市)院長の稲村茂さんはそう説明する。  会員で、町の婦人会長を務める工藤憲子さん(71)は、高齢者から相談されることが多い。最初は生気がない高齢者でも、話をじっくり聴くうちに、晴れやかな表情に変わるのを何度も見てきた。「以前は私も励ましていた」と苦笑いする。  会の発足後、延べ1500人以上の町民が講演会で心の健康について学び、サロン「よってたもれ」も1400人以上が利用。ロールプレーは、町内7地区の住民92人も体験した。  この活動が功を奏したのか、心の健康に関して町の保健師に寄せられる相談が増え、うつの人が医療機関を受診する例が増えた。  秋田県では、各市町村が〈1〉心の問題について住民が相談員になる〈2〉講演会を開く――など自殺予防対策を行っており、県は2001年度から順次、藤里町など6町をモデル地区に指定した。  その結果、01年に計30人いた6町の自殺者は、04年には15人に半減。藤里町では17年ぶりにゼロになった。一方この間、周辺町村では減っていない。  モデル事業を指導した秋田大医学部教授(公衆衛生学)の本橋豊さんらが昨年、県内で住民アンケートを実施したところ、「近所の人はお互いに助け合う気持ちがある」と回答した割合が高い地区の住民ほど、うつ症状が少なかった。  本橋さんは「うつ病や自殺を予防するうえで、地域への愛着や住民同士の信頼には大きな意味がある。都市部でも同じことが言えるのではないか」と語る。  残念なことに、藤里町では昨年から今年にかけ、計2人の高齢者が自殺した。町保健師の夏井サチさんは「地域のアンテナをもっと高くして、迅速に対応したい」と気を引き締めている。  【高齢者への稲村茂院長の助言】 秋田県では、苦しくてもやせ我慢し、格好をつける県民性を「ええふりこき」と呼ぶ。しかし、独りで悩んでも、うつ状態になると悪い方向にしか考えられない。「我慢する人より、愚痴をこぼせる人の方が強い」と考え、遠慮せずに悩みを人に相談したい。 (2006年5月9日 読売新聞)