自殺防止の取り組み

 =秋田県鶴田町、新潟県松之山町(読売新聞) 自殺を防ぐ “意識改革” 地域ぐるみで 津軽弁でユーモアを交えて演じられた「鶴亀座」の自殺予防寸劇(昨年秋、青森県鶴田町で) 「あまり『けっぱれ』(頑張れ)だのと励ましては、かえってダメなんだどー。ただ、話を聞くだけだよ」  「『んだ、んだ』と聞けばいいんだべー」  津軽弁で、時折ユーモアを交えて演じるのは、青森県鶴田町の住民で作る健康劇団「鶴亀座」。昨年秋から始めた「自殺予防寸劇」の一場面だ。  「鶴田家」の大黒柱がうつ病になり、家族や友人が専門医を受診するよう勧める物語。県内各地の催しで度々“公演”している。  青森県の昨年の自殺率は、10万人あたり39人と秋田県に次いで全国2位。岩手県を含めた北東北3県は、毎年、自殺率が全国で上位に入る。健康や経済問題などに加え、▽日照量不足でうつ気分が増す▽降雪により活動が低下する――といった理由も指摘されている。  青森県立精神保健福祉センター所長で精神科医の渡辺直樹さんによると、北東北では「高齢だから仕方ない」「よく勇気があったな」など、高齢者の自殺を許容するような住民意識があり、「それが、自殺への“最後の一押し”になる危険性がある」と言う。  同センターでは3年前から、自殺率が高い町での住民意識調査や、保健師対象の自殺予防研修会、マニュアル作成などを実施。県内で自殺率が高い15市町村でも、独自の取り組みを展開している。鶴田町の寸劇もその一つだ。  県東部にある名川町では、毎月10地区以上で、お年寄り同士が話をしたり体を動かしたりする「よりあいっこ」を開設。心理的に孤立させないことが狙いだ。  自殺やうつ病を防ぐ環境を作るこうした活動は、「1次予防」と呼ばれる。渡辺さんがかかわった秋田県由利町での5年間の活動で、女性の自殺が大きく減った実績がある。  一方、すでにうつ病など心の不調がある人を発見し、治療に結びつけるのが「2次予防」。新潟県松之山町で行われている2次予防活動が効果を上げたことから、同様の取り組みは全国に広がっている。  これらの活動で大きな役割を果たしているのは、地域の保健師たちだ。さる9月には、北東北3県の保健師らが、自殺予防の会議を開催。住民ボランティアが活動していることも、複数の地域から報告された。  名川町の2次予防活動にかかわった慶応大保健管理センター教授で精神科医の大野裕さんは「自殺は、医療だけでは予防できない。家族や自治体、住民など地域の連携で支えることが必要だ」と指摘している。  新潟県松之山町の2次予防活動 65歳以上の在宅の高齢者全員に、心の状態を点検する質問表による調査を実施。うつ傾向が強い人には、精神科医と保健師が面接し、治療やケアにつなげる。この活動を85年から行った結果、1970―86年の自殺率が10万人に対して437人だったのが、87―2000年は96人にまで減った。 (2004年10月22日 読売新聞)