夢=2015年の日本
2015年の日本 自殺の少ない国
自殺者が6年連続して3万人を超えている。厚生労働省は、自殺を減少させるための提言をまとめ、対策を打ちだした。自殺の原因・動機としては、健康問題、経済・生活問題、家庭問題などである。こういう問題から、精神疾患である「うつ病」になるから自殺する。「うつ病」は適切な治療を受けないと自殺する病気である。医者や臨床心理士が治せそうなものであるが、忙しい、技術不足、偏在などが原因で、うつ病を治癒できない人が多くいる。厚労省の提言でも専門家の技術向上を働きかけるが、うつ病の治療、自殺防止には長期の支援が必要である。うつ病患者、自殺念慮を持つ人に近いところで生きてきた一般の人によるボランティア活動で自殺を減少できる可能性がある。そういうボランティアが日本各地で活躍し、自殺が減少しているのが、「2015年の日本」、私の夢である。(大田健次郎 1/18/2005 記)
2015年の日本 自殺の少ない国
第一、はじめに
平成15年の自殺者は全国で3万4427人だった。この6年連続して3万人を超えている。平成14年12月、厚生労働省の自殺防止対策有識者懇談会は、自殺を減少させるための提言を「自殺予防に向けての提言」(以下、「厚労省・自殺予防提言」と略称)としてまとめた。
自殺を決行する本人の苦しみと遺族の苦しみを思うと、自殺を回避できる手段があるならば、それを実現しなければならない。
この提言の中に、(参考)として、「平成12年(2000年)に策定された「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」においては、平成22年(2010年)までに自殺による死亡数を2万2千人に減らすこと」(1)と、2010年度における数値目標を掲げている。
しかし、提言によって、この目標を達成するには、相当な困難が予想される。そこを考察して、この目標を達成し、「2015年の日本」として、自殺者数が、2万人以下になっている社会を描いてみたい。そのためには、政府の提言のほかに、一般国民が何をすればよいか提案してみたい。
第二、自殺とうつ病の関係
平成15年度は、自殺の原因・動機としては、健康問題が最も多く、経済・生活問題、家庭問題、勤務問題がこれに続く。年齢別では60歳以上が33.5%を占め、次いで50歳代(25.0%)、40歳代(15.7%30歳代(13.4%)の順となっている。小・中学校、高校生の自殺数は、318人で、前年より85人増加した(2)。
ところで、自殺の原因・動機としては、健康問題、経済・生活問題、家庭問題、勤務問題などがあげられているが、このようなことで悩む人々は、こんなに少数ではなくて、もっと多いはずである。なぜ、一部の人が自殺するかというと、このような種々の原因によって、精神疾患である「うつ病」になるからである。「うつ病」にかかる人の多くが自殺念慮を持つようになり、実際に自殺を決行するということは、精神科医や臨床心理士の間ではよく知られたことである。うつ病は、抑うつ気分が中心の精神疾患であり、重症例ではその苦しさは筆舌に尽くしがたいほどであり、自殺することも多い(3)。
「厚労省・自殺予防提言」でも、次のように分析している。
「社会的なつながりの減少や自分が生きていても役に立たないという意識、いわゆる役割喪失感から、危機的な状況にまで追い込まれてしまう過程、あるいは逆に、役割を背負いすぎて、耐えきれなくなるといった過程も明らかになる。また、このような過程でうつ病を発症し、正常な判断ができなくなることも多い。」(4)
うつ病は、何か人生上の大きな出来事(ライフイベント)があった場合に、そのストレスをうまく対処できないで発病することが多い。死別、離婚、両親の不和、いじめ、失敗、退職、人事異動、過労、ひっこし、出産育児、事故、重篤な病気(がんなどの身体の病気やパニック障害、対人恐怖などの心の病気を含む)などがそういう例である。こういう出来事があると、ストレスになることが多くて悩むとうつ病が発症する。健康問題、経済・生活問題、家庭問題、勤務問題から、うつ病を発症して、適切な治療をしないと自殺するのである。自殺の減少という問題には、「うつ病」の視点を欠くことができない。
「厚労省・自殺予防提言」では、うつ病の治療法が確立されているという。
「自殺死亡者にうつ病を患っている者が多いこと、うつ病の治療法が確立されていること、一部の地域では、うつ病等の問題を持つ者への対策により自殺予防に一定の効果をあげていることから、こうした事例も参考にしつつ、早急にうつ病等への対策の充実に取り組むべきである。」 (5)
その治療法とは、薬物療法と心理療法等である。薬物療法は精神科医、心療内科医などの医者が担当する。心理療法は臨床心理士などが行っている。
ところで、今後、自殺の減少を推進していく役割をになう組織等がその役割を十分に自覚して、治療方法の向上に努力しなければならないが、「厚労省・自殺予防提言」では、第一に、相談機関、第二に、治す専門家という役割分担を想定している。
・第一段階=悩む人が、まず相談する多数の機関および「いのちの電話」。
・第二段階=うつ病等の治療を担当する専門家で、第一段階の機関が紹介する先。うつ病に詳しい精神科医や臨床心理技術者等である。
第一の相談を受ける機関は、医療機関(精神科医、かかりつけ医、看護師、臨床心理技術者等)、地域の保健所・精神保健福祉センター・市町村の医師、保健師、助産師、看護師、精神保健福祉士等、事業場の産業医、産業保健スタッフ、管理監督者等、学校の教諭、養護教諭、学校医、スクールカウンセラー等である(6)。
上記の機関のほかに、自殺を考えている人が24時間相談できる、専用の電話相談「いのちの電話」がある(7)。
第三 自殺減少の対策と懸念
「厚労省・自殺予防提言」は、相談を受ける機関およびうつ病を治す専門家の技術向上、うつ病の薬物療法および心理療法の周知という2つの柱で、これを十分活用することをもって自殺減少の対策としている。
ところが、筆者は、これらの対策を講じてもそれほど自殺は減少しないのではないかとおそれている。
1)医者の技能・時間・意欲の不足
うつ病にかかった時に、治療できる専門家がいればよいわけである。「自殺予防提言」では、治す専門家の技術向上を推進していくことを提言しているのであるが、次の現状をみれば、その実現はきびいしいものがある。
第一に、内科医、精神科の医師の資質・技術の問題が指摘されている。他の精神疾患とうつ病の鑑別診断が難しくて、内科医でも精神科医でも誤診する(8)。精神科医の中には心理療法をやる気がないという誠意の問題もある(9)。精神科医は、統合失調症、不安障害、人格障害など広範な精神疾患の治療法を研究しなければならないし、多くの患者を受け持つので、うつ病の研究や患者のケアに多くの時間をさく余裕がないのであろう。
第二に、うつ病であると診断できた内科医や精神科医が薬物療法を行っても医者が忙しいせいか、種々の抗うつ薬を適切に処方できない、支持的精神療法(薬物を処方するだけではなくて、言葉での助言を加える)を行わないで治療中に自殺する患者がいる。
「これにはうつ病の診断よりもずっと時間がかかる。内科外来で面接に時間をかけることが困難であるなら、短時間ですませようとせず、精神科医に依頼する努力をして欲しい。」(10)
うつ病であることを発見できない医者、うつ病であると診断できても十分な精神療法を提供する余裕がない、する気がない医者がいる、こういう状況はいくら政府、医師会が変えようと思っても、一部の人は変わっていくが限界があると思われる。
2)心理療法者(カウンセラー)の技能不足
うつ病は心理療法でも治るので、カウンセラーの技術向上も期待されているのだが、心理療法にも種々あってうつ病に効果がないもの、カウンセラーの未熟さがあり、その実現には困難が予想される。
第一に、カウンセラーは、クライアントや契約先での広範な期待にこたえるために、種々の問題について研究しカウンセリングを行う。そうすると、特に、うつ病について得意なカウンセラーばかりではなくなる。治す力量もないのに、報酬を得るゆえにクライアントをひきとめつづけるカウンセラーもいるであろう。カウンセラーへの批判の言葉もある(11)。
第二に、実際、現在活動しているカウンセラーも、自分のカウンセリング能力、手法に自信を持っていない人が半数もいる(12)という状況である。
第三に、種々の心理療法のうち、効果について論争が起こっている(13)。深刻なうつ病は、話を聞くだけの「癒しのカウンセリング」では治癒しない。そのようなカウンセリングを受けていると、うつ病が遷延化して、そのうちに自殺されるおそれがある。
第四 夢=2015年の日本、自殺者が減少
政府のガイドラインに従う公的機関などの活動は推進されていくであろう。しかし、そういう機関のスタッフや医者は他の任務をも兼務しているので、時間の制約、身分・地位保全からの心理抑圧に影響されて、自殺問題に真剣に長時間とりくむには限界も感じられる。
薬物療法の習得の困難さ、心理療法のうつ病治癒効果への疑問など、まだ療法自体に限界がある。忙しいスタッフ、医者、カウンセラーがどこまで、うつ病、自殺問題に取り組むだろうか。また、その限界を克服してうつ病の薬物療法、心理療法に習熟する医者、カウンセラーが養成されても、患者が少ないと採算がとれないと思うから都市部以外に移住する医者、カウンセラーは、今後も少ないだろう。自殺は都市部以外でも多い。自治体が報酬を保障してうつ病、自殺問題に詳しい医者やカウンセラーに移住を要請することも現実的には限界があるであろう。そういう既成の機関、専門家ではなくて、発想を変えて新しいリソースの活用を提案したい。
「厚労省・自殺予防提言」の実行のうち、ボランティア組織には、治す専門家としての役割は、全く期待されていない。それは、組織化されたものではなくて、従来は存在しなかったからやむをえないことである。だが、筆者は、どのような地域にも存在する地域住民、住民ボランティアがうつ病、自殺念慮を<治す役割>をになうことなくしては、大幅な自殺減少は実現しないと思う。うつ病に詳しい医者や臨床心理士がいないところで、地域住民が、うつ病を<治す>専門家になればよい。それは、次のような提案である。
地域の住民のうつ病の治療および自殺予防の活動を推進できるボランティア(以下、「自殺予防のボランティア」と呼ぶ)を育成して、それを核にしたボランティア組織を全ての都道府県に設立する。もちろん、まずは、1カ所から始めて、そこで、他県のスタッフを育成していく。
うつ病の治療は専門家でないとできないように思えるであろうが、発想の転換が求められる。既成の他の機関、医者、カウンセラーは種々の任務を帯びているので、うつ病、自殺問題に専念できず、技術向上の研究をする時間がなく、忙しいために患者への対応が中途半端になる心理が働く。組織での自己保身、組織の利益維持の心理が働く。ボランティアだからこそ、自由な精神(給与を受ける組織の任務、地位・給与などの自己保身に縛られない)と自由な時間が多いから、多くの時間と誠意を傾倒できる。
次に、ボランティアによる技術、ノウハウに疑念をいだくかもしれない。専門家でないと、うつ病、自殺念慮を<治す>ことができないという思い込み、常識を転換する必要がある。それは偏見である。実際医者でも臨床心理士でもなくて、心理療法を行って、うつ病を治している宗教者がいる。真剣であれば、宗教色を抜きにして、その心理療法的ノウハウを習得できるのである。なぜなら、うつ病、自殺念慮は、それだけに限定された問題であるので、その心理療法のみを習得すればよい。呼吸法や行動活性化の手法を用いることができる。専門のカウンセラーは多くの障害、多くの療法を学ぶ必要があるが、「自殺予防のボランティア」は、ごく一部だけを学ぶだけでたりる。呼吸法や注意集中、受容の手法は、マサチューセッツ大学医学部医療センターでも行われている。ボランティア精神のある熱心な人は、短期間で習得できる。日本には、多くの宗教があって、相当熱心になる住民がいるから、宗教活動ではなくて、うつ病、自殺予防の社会貢献活動に参加したいという真剣なボランティア希望者も各県に幾名かは出現すると思う。要は、その啓蒙次第であろう。その周知のために、理解ある組織などの支援が必要である。
うつ病、自殺問題は、住民によるボランティアでもできる理由の一つに、いくつかのボランティア、住民による活動が参考になる。「いのちの電話相談」もボランティアによって行われている。秋田県合川町では一般人がうつ病の教育を受けて自殺防止の相談員になって、うつ病のリスクの高い人の自宅を訪問して相談相手になっている。山梨県は、健康で長寿の人が多いが、山梨大学医学部の調査によれば、住民の「仲間のつどい」が多いことが孤独を防止して、ストレスによる病気を予防しているようである。仲間と定期的な集まりを持つことで孤独をまぬかれることは、うつ病、自殺予防にも貢献することがストレスと免疫、うつ病との関連の研究などで判明してきている。ボランティア組織が中心となって、趣味、旅行などの催しをも行うことで、孤独からのうつ病を予防することができる。こうして現行の薬物療法、心理療法があっても、治らない「うつ病」が多いが、呼吸法を中心とした心理療法は、うつ病に効果がある。全国の市町村に、数人のボランティアさえいれば、やりかたによっては、金をかけず、敷居が高くなく、気軽に受けることができる仕組みを作ることができる。
<中核となる心理療法>
次に、ボランティアでも習得でき、中核となる可能性のある「心理療法」を簡単に述べる。ほかに、ボランティアが習得できて、うつ病、自殺念慮の治療に顕著な効果がある心理療法もありそうだから、それは、各ボランティア組織が研究して取り入れていけばよい。
ゆっくり呼吸法(自動思考を中止する効果がある)、自己洞察法(自分の思考、感情、衝動などを洞察してコントロールする)を純粋に心の病気の治療に利用した療法を用いる。これを実践して、自動思考(他者への恨み、後悔、自己嫌悪など)に気づき中止して、感情をうまくコントロールして、自分の願いを実現することに意識を向けていく心のトレーニングをして、うつ病やパニック障害などを治癒させる心理療法である。結果的に認知、行動までも修正することを目標とする点から認知行動療法の一種とみてよいが、呼吸法、自己洞察法を重視する点は、マサチューセッツ大学医学部のストレス緩和プログラムに類似の療法である。呼吸法、自己洞察法は、自動思考、感情、苦悩へのとらわれ、依存などの心を洞察し、心の病気から治癒していくことを目的としている。この手法を実行したり、ストレスや病気の関係などを座談会で学ぶ方法をとりいれていく。
呼吸法は宗教でも用いられているが、宗教色を入れると、クライアントを宗教的信仰に抑圧させること、指導者を絶対視して依存する心理が生まれて、心の病気の治癒だけにとどまらず患者の信仰、将来の生き方まで左右させることになり弊害が多く、心の病気のカウンセリングには不向きであることが理解されている。カウンセラー自身の心の弱さ(頼られる存在になりたい、金もうけに利用したい、自分の気にくわない人は組織から追放したいなど)も自覚させる点が自己洞察法のすぐれた特徴である。(14)
このようなうつ病、自殺防止だけに特化した「うつ病、自殺防止の心理相談員」ならば、1年程度で養成できる(その後の技術向上の教育は別として)。自殺を早急に減少させるためには、臨床心理士(大学院などで長期間の学習を必要とし、多くの病気を扱い、自活できるだけの報酬を得る)の養成を待てず、新しい人的資源(報酬を期待しないボランティアによる「うつ病治癒・自殺防止」に特化した心理相談員)の養成、活用を提案する。
この問題解決には、報酬目的でなく、他者を援助することに生きがいを求めるボランティアが向いている。うつ病の心理療法は、長期の労力がかかる(うつ病が完治するまで3カ月−1年のカウンセリングを提供するので)割りには収入が期待できないためである。長引いている人は経済的弱者であるため完治するまでカウンセリングするには、無料とか、格安料金であることが重要である。
<2015年の日本>
上記を核として、2015年の日本を描く。
うつ病の治療のために心理療法を行い、自殺予防の活動を行う「うつ病、自殺予防の相談員」が各県に相当数いる。各県に、「うつ病、自殺予防の相談ネットワーク」の組織(NPO法人か任意団体)があり、それぞれの組織には5人以上の「自殺予防のボランティア」相談員がいて、当番でカウンセリングにあたるので相当数の患者の治療を行うことできる。各人は、それぞれに強みをもって分担している。不登校生徒のうつ病、女性のうつ病、勤労者のうつ病、老年期うつ病、パニック障害と並存するうつ病に強い人がいて、患者にふさわしい指導員がカウンセリングを担当する。それぞれ、呼吸法程度を指導できるアシスタント指導員と共にカウンセリングを行う。
一部の組織は、外出できない患者のために、在宅カウンセリング、病院への出張カウンセリングを行っている。カウンセリングを行う指導員、アシスタントのほかに、レジャー、文化活動を企画するスタッフ、事務などを担当するスタッフもいる。みな、医者でもなく、臨床心理士でもないボランティアである。共同で、近隣の住民のカウンセリング、趣味の活動、旅行などを提案して行っている。信頼できるスタッフと心を病む人たちが「仲間のつどい」の要素をもちながら、集団カウンセリング、集団の楽しい催し(多少、自己洞察法の時間が取り入れられる)に参加するので、孤独、孤立からのうつ病の悪化を防止しており、さらに重症の人には、うつ病、自殺問題を専門に研究しているカウンセラー(相談員)が時間をかけたカウンセリングを行うので、うつ病が治る患者が多い。治った人の一部が組織の協力者や指導員にもなっている。
もちろん、これは、NPOに準じて、政治色、宗教色はない。役員は定款に従って改選されている。
そういう組織が各県に少なくとも1つはある。活発な県では、数個ある。その組織には、年会費3千円程度を負担してくれる資金援助会員が100人以上いる。これを基本的資金として、さらに県内の企業などからの寄付を受けている。資金はカウンセリングの会場借用、スタッフの交通費などに使用される。その資金をもとに、薬物療法や他の心理療法でも治らなかったうつ病者、長引いてひきこもりがちな人のカウンセリングを原則として無料で行う。まず、薬物療法を併用すべきとか、このボランティア相談員で扱うことができないと判断した患者は、協力関係にある精神科医、大学病院などを紹介する。ひきとめることはしない。
そういう組織が複数ある県の自殺者数は、平成16年と比べて6割以下になっている。その活動が効果をあげて、心身の健康に貢献して医療費も減少している。これが私の描く「夢=2015年の日本」である。実現には、多くの人々の真剣な協力が必要である。
(注)
- (1)厚生労働省「自殺予防に向けての提言」(自殺防止対策有識者懇談会報告)平成14年12月、2章1節。
- (2)警察庁「平成15年中における自殺の概要資料」
- (3)野村総一郎「内科医のためのうつ病診療」医学書院。河野友野信・筒井末春編「うつ病の科学と健康」朝倉書店、など。
- (4)厚生労働省「自殺予防に向けての提言」1章2節2。
- (5)厚生労働省「自殺予防に向けての提言」2章3節3(1)(1)。
- (6)厚生労働省「自殺予防に向けての提言」(自殺防止対策有識者懇談会報告)平成14年12月、第2章第3節3、危機介入(1)うつ病等対策(3)。
- (7)同上、第2章第3節3(3)
- (8)『ストレス診療ハンドブック』メディカル・サイエンス・インターナショナル、350頁。
- (9)「心の科学」113号、藤山直樹(上智大学文学部心理学科)66頁。
- (10)宮岡等(北里大学)(『内科医のための精神症状の見方と対応』医学書院)、47頁。
- (11)粟野菊雄「精神医学の基礎知識」(『教育』第38号、龍谷大学教育学会、2003年)。
- (12)『ストレス診療ハンドブック』メディカル・サイエンス・インターナショナル、359頁。 日本臨床心理士会のアンケート調査では「自分の力量に不安を感じている人が53.9%もおり、しかもサポート体制や将来の見通しに不安を覚えている人が半数を超えているという。」
- (13)朝日新聞、2004年1月16日、論壇時評「回復療法」めぐる応酬。
宮崎哲弥氏と八幡洋氏の対談「「心的外傷」を弄ぶ、危険なカウンセリング」(雑誌「諸君!」平成16年2月号、文藝春秋社)
また、患者の話を聞くだけの「癒しのカウンセリング」では、その時だけほっとするだけのことで、根本的治癒に至らないという批判をしている記事が、「こころの科学」113号、日本評論社)にみられる(宮川香織(東京医科大学精神医学教室)29頁、藤山直樹(上智大学文学部心理学科)66頁)
- (14)以上の問題や懸念の論述のうち、「2015年の日本」以外は、識者の文献を参照して、詳細に埼玉メンタル・カウンセリング協会のホームぺージで述べている。認知行動療法、ストレス緩和プログラムなども、同ホームぺージで紹介している。
(1/18/2005/大田健次郎)
この論文を公表してから3年が経過しました。
上記の論文の作成後に、2005年9月「マインドフルネス&アクセスー認知行動療法の新次元」が、日本で翻訳出版されました。私は、アメリカのマインドフルネス心理療法の進展を知りませんでした。同時並行して、アメリカでは、途方もなく進展していたのです。
アメリカでは、臨床試験まで行なわれていて、うつ病の治療法として確立されています。呼吸法をたくさん用いる心理療法は精神疾患を治す、予防する効果があることを臨床で証明してくれました。森田療法も、「あるがまま」という心得が日本で創始された心理療法として認定されています。マインドフルネス心理療法も種々の精神疾患の治療に成功しています。森田療法も今後、マインドフルネス心理療法に歩みよっていくでしょう。
その後もマインドフルネス心理療法の出版、翻訳があいついでいます。
マインドフルネス心理療法の本が早稲田大学、慶応大学、立命館大学などの心理療法者によって翻訳されたことで、その大学でマインドフルネス心理療法の講座がもたれることを期待できます。
アメリカで、臨床試験で効果が確認されていますので、日本でも適用できます。薬物療法ではなくて、言葉での助言のみ、呼吸法や運動の指導のみです。習得すれば、誰でもできますが、習得には、一定期間の訓練が必要です。読書だけでは習得できません。心理学系大学で、教育が始まりました。
私が用いている自己洞察瞑想療法もアメリカのマインドフルネス心理療法とほぼ同じです。
しかし、その心理療法を提供できるカウンセラーが全国に所在するようになるのは、無理でしょう。従来の心理療法を推進されてきている専門家はすでにその役割で多忙で、これを習得せず、現状を変えたいと思う若い人が心理学系や看護系の大学で習得するでしょう。また、うつ病、自死問題だけでカウンセラーが自活できるかは疑問です。多くのうちの一つの手法となると熟練しなくなります。
治るまで、患者が、3−6カ月、1年、通所継続する必要があります。自宅から2時間以内でないと、継続できません。マインドフルネス心理療法を提供できる医者や心理士がそんなに多く現われることは期待できません。費用も問題です。
うつ病、自死対策に特化した支援をしたいという地域住民が習得していかなければ、うつ病、自死の減少は限界があるのではないでしょうか。
(1/12/2008/大田健次郎)