高1男子自殺=進級不安で=大阪
=子どもの自殺防止への教訓に
2月27日午前6時45分ごろ、大阪府の私立高校の体育館内の倉庫で、1年生の男子生徒(16)Kさんが自殺しているのが発見された。年明けから成績などで悩み、「進級できるかどうか分からない。死にたい」などと家族に話していたという。26日朝の登校前、自分の部屋に柔道着の帯を持ちこんだのを見た母親が心配して話しかけたが、「大丈夫、変なことはしない」と答えたという。
3月5日から期末試験だった。この生徒は、数学の成績が十分でなかったという。
家族が再発防止のためにと、実名を公表された。家庭と学校とで児童生徒の自殺を防止するために、その様子を知って教訓としたい。報道によれば、次の事実が判明した。
- 前日の2時間目終了後の休み時間に、Kさんが自分の席で首を柔道着の帯で絞めているのを、近くの女子生徒が見つけ、同級生らが止めた。
- 放課後になって経緯を知った担任が「そんなことしたらあかんよ。数学の補習、頑張りなさい」と注意した。担任は同僚には相談したが、校長や両親には報告しなかった。
- (この後、Kさんは自殺した)
- 27日夕に担任から報告を受けた校長らが自宅を訪れ、両親にこうした経緯を伝えた。
- 自殺から約1週間後にKさんの机の中から見つかった英語のプリントには、「死にたい、死にたい」という走り書きのようなメモがあった。
- 校長は「休み時間に首を絞めた後も普段通り授業を受け、注意にも素直にうなずいていたと聞いている。自殺は予想できず、対応に問題はなかったと思う」。
- 母は「自分で首を絞めたのは、明らかに自殺未遂。担任はその事実を把握しており、学校から親に連絡がほしかった。学校を信頼していただけに、その姿勢に憤りを感じる」と話している。
このような経過をみると、Kさんは、うつ病になっていたと思われる。もし、人がうつ病にかかっていたとしたら、ひどくなると、自殺念慮が出てくる。うつ病、それによる自殺念慮、緊急の助言スキルについて、知らない人ばかりが周囲にいると、自殺を実行されることを止めることはむつかしいだろう。
理論的には、次のことで、児童生徒の自殺を止めることができる。しかし、どれかが、不十分となり、現実には、むつかしい。
- うつ病には、自殺念慮が起きることがある。判断力、視野が極端に狭くなっていて、他の選択肢を思いつかない。精神症状が重くて、今後、とても生きていけないと思うという特徴がある。治療すれば、精神症状は治る。これが、児童生徒にも、家族や教師にも理解されていないないので、かねてから、授業やPTAの会合などで勉強しておくこと。
- 児童生徒のうつ病、自殺は、いじめからだけではないことを理解しておくべきである。学業不振、受験失敗、家庭の不幸、教師との人間関係、などでも起きる。いじめでなくても、悩む様子、学校に行きたくない様子、成績が急にさがった、などの兆候がみられたら、うつ病に詳しい相談員に相談する。様子ながめ、放置はいけない。具体的な対策を家族が取りはじめる。
- 異常な行動、言葉がみられたら、自殺念慮が起きている人の自殺を緊急にとめるスキルを持つカウンセラー、相談員に、ただちに介入させる。学校内に、交代でいいから、常時一人は待機させる。または、地域の相談員を決めておいて、ただちに連絡をとって、その相談員と家族の双方で行動を開始する。このような相談員は、現状の医者には不向きである。患者の治療に忙しいし、薬物療法しか知らないから。自殺防止は、ただちに言葉での支援が必須であるから薬物療法は、次の段階である。入院させても、子どもの自殺念慮は薬物療法だけではすぐには改善しないだろう。自殺以外の選択肢があることを懇切に説得
しないと、この事例のように、(教師に説得されて)一時的に自殺行動を中止しても、すぐ後に、実行してしまうことがある。これが、うつ病による自殺念慮の特徴である。大人でも入院中に、自殺することがある。背後にある精神症状が治癒していないから、それが治るという予測と、うつ病の原因になっているストレス(学業不振、いじめ、家庭の不幸、など)への対策を話し合って、将来改善すると安心させないと、自殺念慮はなくならない。
- うつ病には、感情や行動を抑制できないという症状もあるので、将来展望を示さない説得では、ある出来事がひきがねとなって、自殺への衝動が起きることを理解しておかなければならない。家庭でも、学校でも、自殺への衝動が高まった瞬間には、抑制できず、親や教師に言わないままに自殺してしまうこともありうる。自殺防止対策には、学校側も、うつ病の特徴について理解しておくこと、悩みがちな子どもへ配慮も重要である。
- こうした自殺防止の緊急対策をとることのできるスキルを持つ人が学校に一人は、おくべきである。常時待機がのぞましいが、コスト面から無理であれば、学校からの緊急通報によって行動開始するような契約を結んでおけばいい。
- この自殺防止のスキルは特別なスキルであって、すべての臨床心理士がこのスキルを持つわけではない。薬物療法しか知らない医者も、このスキルはない。このスキルは、臨床心理士でなくても、関心のある地域の人が習得すべきである。しろうとでも、1年、これだけをよく勉強すれば、専門家になる。うつ病、自殺念慮について知識があって、本人、教師、家族への助言を積極的、迅速に行なうことができるコミュニケーション能力、行動力が要求されるだろう。教師や家族が、非協力的な態度をみせる場合でも、ひるまず、自分の意見を言わねばならない。自殺の緊急防止には、遠慮などできない。いわゆる、内向的でないタイプ、はずかしがりやでない性格、傾聴型のみでないタイプであることが必要だろう。緊急状況が落ち着いた後では、傾聴型のカウンセラーが活躍できるだろうが、緊急時には傾聴型だけでは、不十分だろう。本人、教師、家族に緊急の助言を提案しなければならない。秋田大学が、自殺防止学の講座を持つというから、こういう自殺防止相談員の養成を行なっていくことを期待できるだろう。
- 自殺念慮を持つ児童生徒は、うつ病になっていることが多い。子どものうつ病を薬物療法以外でも、治すことができるカウンセラーが地域に配置されるべきである。どうしても、薬物療法以外でも、うつ病を治すスキルを持つ人が地域に必要である。
- また、緊急自殺防止のスキルとは別に、家庭や学校で、うつ病を起こしてしまう不適切な人間関係(きびしすぎる親、なやみを打ち明けられなくしてしまう態度とは何か?など)に詳しいスキルも別に必要である。自殺防止には、緊急対策と長期対策(予防と治療)がある。こういうスキルを持つ人々が、学校での授業、大人への説明の機会を持つようにする。
それを自治体、学校が支援する。
こういうことをすれば、児童生徒の自殺を防止できるだろう。
こういう相談員は、学校だけではなくて、事業所にもおくべきである。事業所で、かねてから、うつ病、自殺防止の講演などを受けていれば、働く父親(母親も)からも、家庭での自殺予防の心得が習得されて、子どものうつ病、自殺を早期に予防、発見できる。学校での、いじめも減少するだろう。家庭で、子どもの苦悩に気づき、適切な支援をすることが第一である。親は、我が子を守ればいい。教師は、我が子のほか、30−40人を見ている。親がしっかり、わが子の、苦悩に気づき、支援をすべきである。それを支援する地域の相談員を育成すべきである。上記には、多くの提案がある。一つでもいいから始めるべきだ。上からの待ちだけでは、実現が遅い。地域の人が率先して動くべきである。
( 0702-021 )