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入院していたがん患者が他の患者を殺す

余命がなくやけになって 死への5段階の心理

 エリザベス・キューブラー・ロスによれば、死を意識した人は、5段階を経過するという。  たいていの患者は、上の経過をたどって、死を受容するが、第4段階を克服できずに、長く抑うつ状態になって家族を悲しませたり、自殺する人もいる。 うつ病には、まれに妄想が起きる症状もある。 この事件の患者は、そういう妄想で怒りを克服できずに、殺人におよんだのでしょうか。
 がんは、通常は、長い経過をたどるので、上記の5段階の心理がしばしば現れる。がん患者は、その告知から闘病の間、こうした心理的ストレスを受ける。病院の中で、こうした心のケアを行うことは日本では遅れている。欧米では、宗教心の篤い人々が多いために、キリスト教の牧師などが、がん患者の心のケアをするために病院におもむく、あるいは、病院に常駐している。
 この分野は、日本では遅れているから、病院で、心のケアを行うところが少ない。病院は患者の全身心を預かるのであるから、心のケアを行う仕組みづくりにもとりくんでほしい。
 病院にその仕組みがない場合、患者が自分でとりくむことになる。自己洞察瞑想法の手法も試みていただきたい。欧米でも、マサチューセッツ大学医学部から始まった坐禅に似た瞑想法が病院内で行われている。欧米の手法も、自己洞察瞑想法でも、自分の心の浮き沈み、怒り、不安、抑うつの心を観察し、苦悩を緩和する心得を会得して、がんであっても、それを受け入れて、死ぬ瞬間まで力強く生きていこうとする点で共通である。
 本来仏教は苦悩を解決するものであり、初期仏教では、死の問題を探求することもあったのであるが、不幸にも明治以後、現代に至るまで日本の仏教は、葬式を強く意識されるので、末期患者が僧侶の助言を求めることが少ない。この状況を変えるには、仏教教団の相当な努力が必要である。それを待てない人は、僧侶でないカウンセラーやボランティアで、こういうターミナル・ケア、スピリチュアル・ケアに取り組む人、組織を利用していくことができる。