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がん患者と看護師(5)
 =看護師が燃え尽きないために

 看護師は、苦悩に満ちた患者に接する、ストレスの大きい仕事である。燃え尽き(バーンアウト)が多いという。燃え尽きは、うつ病である。看護師が、うつ病にならないようにしたい。
「「燃え尽きない」がん看護」(医学書院)という本で、その対策を論じている。種々のストレスについて別々に対策が考えられているが、最後の対話をみています。
 平山さんとの対談で、「燃え尽きないで長い間勤めることのできる人、生き残っていく看護師さんの特徴」はという質問に対して、安達さん(注1)の対談が、さらに続く。
 「ゆるぎない自分の看護観の確立」について、お話があります。  医師でもなく、付き添い婦でもなく、栄養士でもなく、看護師の独自性は何かということであるという。これが確立していることが、燃え尽きを防ぐことになる。
 燃え尽きそうになる事例でみると相当、ストレスが大きい職場である。そうであることは、患者と本人にとって、ストレスの大きい場であるということだ。特に、「病気」「死」に関連するストレスが大きいということだ。そういう特殊な環境において遂行されるのが看護師の職務の独自性だ。
 私は、自己洞察瞑想法という普遍的な精神作用の洞察法、汎用的なストレス緩和法をご指導していることになる。心の病気の治療の場面で、自己洞察瞑想法を用いれば、臨床自己洞察瞑想法であり、すなわち、自己洞察瞑想「療法」という心理療法となる。自己洞察瞑想法(療法ではない)は、汎用的であるから、他の領域での、貢献もできる。「非臨床」の場での、自己洞察瞑想法である。
 こういう人間の精神活動の洞察という視点から、看護師の職業の独自性を考えてみると、患者(および、家族)が病気に関連する「受け止め方」(思考、判断)、感情、そのつらさの対処、闘病への思い、などが精神作用が渦巻く現場である。特に、「死」についての、同様の精神作用がある。治療方法の提案は、医者が行うが、最終決定、治療中の苦悩のひきうけは、患者である。このような、患者の精神作用は、病気の進行にも影響することは、精神神経免疫学や、精神腫瘍学で、指摘されている。患者の精神作用とそれに伴う言葉、行動と長時間、接するのは、看護師である。医者よりも、看護師が患者の精神作用に多くの時間接触する。そこに、看護師の職務の独自性があるようである。
 患者の病気、死についての受け止め方、治療法の選択など、直接治療そのものではない(ストレスによって症状に影響するが)のに、闘病中に重要な役割を果たす「患者の精神作用」がある。患者は、苦悩する。その苦悩のあまり、看護師に対して、種々の要求、言葉、行動となって現れる。今度は、それを、看護師が、どう受け止め、自分の感情をどう処理していくか、看護師の側の精神作用によって、患者への態度、行動に影響する。看護師として提供するサービスの質が変わる。
 看護師が行う職務のうち、身体を動かす仕事(注射、手当て、食事、身体をふく、薬の手配、など)は、医者の指示によるから、プライド、独自性は感じにくいであろう。
 患者(家族)と医者、看護師本人が、病気、死とかかわっていく上で起きる精神作用を洞察して、患者(家族)が、納得いく人生(時に、最期の)を生きていくことを演出していくのが看護師の独自性のように見える。看護について何も知らない私が、精神作用だけをみている。私が傍観した「看護師の独自性」である。人生の中で、最も強烈なストレス(死に行く自分)、最期のストレスと向き合う患者、その対処法を聞いてくる患者、つらさをぶつけてくる患者、そういうものが自分に向けられた時、他の職業のような無視、無応答、反発、逃避はできない職務。激しい感情が渦巻くことの多い現場で、一人の患者の言動にわどわされて、ひきずっていて、次の患者の処置に臨むと、医療事故をおこすおそれがある。むつかしい職業である。
 自己洞察法は、自分の精神作用を観察し、集中し、制御し、行動を選択していくスキル(自己洞察)にかかわる。看護師が、自己洞察法を訓練実施するならば、看護観への確立、提供する職務の質の向上に、役立つかもしれない。
 対談の部分は、およそ、以上のとおりです。本文は、患者との関係を克服していく事例を列挙してアドバイスがされています。看護師の苦悩は相当なものだ。 いくつか、自己洞察瞑想法との関係で、みておきます。