カウンセラーのストレス(2)

 カウンセラーのストレスの2番目は、「価値観の違いに悩む」があげられている。
 「心理臨床では、各種の理論的立場の相違があるにしても、患者あるいはクライエントの立場を尊重して傾聴し、受容し共感することが基本的方法論である。ところが、教育や産業あるいは司法矯正などの場では、それぞれ所定の価値観(教化や職場適応の改善など)が優先されてしまい、心理臨床家のアプローチはなかなか理解されない。」

 「深刻な問題(あるいは事例)ほど、気長にかかわるとか待つ姿勢を維持することが大事なのである。そのことを関係者にうまく納得してもらうために、多くの心理臨床家は苦労している。」(359頁)

 臨床心理士の仕事は、気長にかかわるとか、待つ姿勢が大事であるが、「早急の心理的効果が期待されすぎるために、目に見える成果が上がらないと信用を失う羽目に至ることもある。」(359頁)

 他の専門家との価値観のほか、クライアント(患者)からも、「早急の心理的効果が期待されているようだが、クライアントは、1、2回の面接で、ただ傾聴するだけのカウンセリングに失望して、やめてしまうこともあるだろう。臨床心理士のサービスが健康保険の対象外であるため、医療費より高く感じて、継続することを断念することも背景にある。それで、効果が上がらないで治療を打ち切ることになる。これでは、学校や企業などとの契約業務ではなくて、独立のカウンセリング所としては、なかなか自立しにくい。こうして、臨床心理士が、うつ病や不安障害の治療にとりくむカウンセリング所は少なくなる。薬物療法でだめなら、心理療法家に、という状況にないのが、日本の精神疾患の治療体制である。不登校、ひきこもり、自殺ということが、精神疾患による場合もあるだろうから、精神疾患の治療、予防の研究と実行の組織整備をしていかなければならない。日本が、自殺大国であるのは、ストレスが大きい社会であるほか、心理療法の遅れもあるだろう。
 国民の間に心理療法について無理解、偏見を持ち、発展を阻害している。