医者の苦悩
医者が与える患者の苦悩
精神科医が患者を絶望させる
医療の現場で、患者が医師から言われる言葉や扱いで傷つくことがあることを、「ドクター・ハラスメント」(ドクハラ)と呼ばれるようになった。精神科や心理カウンセラーのドクハラも感じられる。
うつ病やパニック障害は、薬物療法や心理療法で治る人も多いが、そのうちの一部は、長びいて、難治性のものもある。精神科医の薬物療法を長く受けていて、軽快しない患者に向かって、次のように言うのは、患者によってはドクハラになる。
「あなたは、薬物療法をもう2年行っているが、治らない。あなたはもう一生治らないだろうと覚悟してください。」
もし、医者が本当に治らないと思うならば、この医者の言葉には、誤った固定観念があり、認知のゆがみがある。だが、この言葉によって、うつ病が長びいている患者は、「生涯治らないのだ」という固定観念が植付けられてしまう。認知療法によれば、このような固定観念があると、うつ病者はいよいよ治りにくくなる。繰り返し、「治らないのだ」という思考を起こすことになって、うつを深めていく。自殺するかもしれない。ドクハラによって、症状を悪化させることになる。
このような医者の言葉には、固定観念や認知のゆがみがある。それは次のようなものである。
- 長びいたうつ病でも、薬物療法で治らなくても、認知療法で治ることがある。医者は、心理療法でも治ることがあるということについて勉強不足による誤った固定観念がある。
- 心理療法で治ることがあると聞いていても、それを疑うならば、薬物療法絶対主義の偏見による誤った固定観念を持っている。「白黒思考」の認知のゆがみもある。
- 抗うつ薬でも、綿密に処方すれば、7割は治るという。種々の薬物を変えて綿密な処方を行った後の、言葉であるのか、自分の医療技術の力量不足はないのかという、自分に謙虚でないことの問題。
- 薬物療法で治らないならば、一生治らないというのは、「白黒思考」のゆがみである。現代の抗うつ薬の主流は、SSRIである。選択的セロトニン再取り込み阻害薬である。数年たてば、新しい薬物が開発されるかもしれない。うつ病でも自然治癒もあるだろう。環境の変化、援助者の出現によって治ることもあるだろう。一生治らないだろうと断定するのは認知のゆがみである。
- 薬物療法も難しいだろうが、薬物療法でだめでも、電撃療法、種々の心理療法がある。
一生治らないだろうと告知されると、うつ病患者は固定観念を植え付けられて症状が悪化する恐れがある。精神科医は、それを自覚しておいて欲しい。
同じ言葉でも、患者を落ち込ませないことがある。これだけ長く薬物療法を受けても軽快しないならば、その症状があるのを受け容れて、できる限りのことをして生きていってほしい」と思って、上記の言葉を言う医者である。医者と患者が信頼しあっていれば、患者は悲観的には解釈しないだろう。
心理カウンセラーも同様のことがある。不誠実なカウンセラーによって傷つけられる「カウンセリング・ハラスメント」(カウハラ)もある。私たちもこういうことをしないように自戒したい。しかし、時には、精神科医やカウンセラーが、患者からの厳しい批判、怒りによって、翻弄されて、医師やカウンセラーが、心の病気になったり、自殺したりすることもある。簡単ではなく、ストレスの大きい任務である。
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