痛そうな光景写真を見て連想=現実の痛みと同様の脳活動

  • 図の上=痛みが起きるような実際の刺激があって、現実の痛み(A)を感じる。この時、側頭葉など10カ所の部位が活動する。

  • 図の下=痛みが起きるような実際の刺激がなくても、痛みを連想させる視覚情報があって、痛みを連想する。
    • (B)現実の刺激(注射など)はないのだから、痛みは感じないが、側頭葉など10カ所の部位は活動する。(これは、健常者)
    • (C)現実の刺激(注射など)はないのに、側頭葉など10カ所の部位は活動し、痛みを感じてしまう。(治療が必要である)

  •  肉体的な痛みを連想させる写真を見ると、実際には痛くなくても脳は現実に「痛い」と 感じるのと同様の部位が活動する。群馬大学大学院医学系研究科の斎藤繁教授らが、米国 の脳科学専門誌に発表した。痛みには感情の動きが大きく関与しているためらしい。

     男子学生10人に、注射針が刺さった腕の写真を5秒間見せ、「痛み」を想像してもら った。この時、機能的MRI(fMRI)と呼ばれる装置で脳の活動を調べると、10人 全員で、本当に痛みがあったときに興奮する側頭葉の一部など(体の痛みと ほぼ同じように、大脳内などの10か所程度の部位 )が同時に興奮していた。この部分 は情動をつかさどっているとされる。
     一方、花畑や湖の「平和的」な風景写真を見せた場合は、視覚野しか反応がなかった。
     傷が治った後でも痛みを訴え続けたり、心理的に強いショックを受けて「心が痛い」と 訴えたりする患者やPTSDの患者がいる。しかし検査で異常が見つからず、痛み止めの 薬なども効かないため、治療が難しい場合が少なくない。
     共同研究者の一人、自然科学研究機構・生理学研究所(愛知県)の柿木隆介教授らは痛 みには感情の動きが深く関与している可能性を考えており、「今回の結果は、『心の痛み 』に対する治療に役立つのではないか」としている。( 2007年05月01日 asahi.com 朝 日新聞 )
     現実の刺激がないのに、過去の出来事(事件、事故、病気、災害など)がきっかけとな って、何かの刺激によって「痛み」を感じてしまう人がいる。見ただけ、聞いただけで、 考えただけで、恐怖体験が再現されるのは、フラッシュバックで、PTSDにある。今回 の研究は、健常な人でも、見て(視覚)、連想(言葉による評価判断)した時、現実の痛 みは感じないが、感情などに関係する多くの脳部位が活動していた。
     そうすると、見たり、聞いたりして、感情などに関係する多くの脳部位が活動したことに刺激されて、痛みまで 感じてしまう(幻の痛み、心の痛み、トラウマ、など)メカニズムが、この調査によって明らかになったのかもしれない。
     このような「幻の痛み」などをひきおこすのに重要な役割をはたしているのが、「思考判断 評価」であるかもしれない。上記の実験で、嫌悪的視覚と嫌悪的連想があわさって、脳の 情動関連部位が亢進した。マインドフルネス心理療法では、直接体験(視覚、症状、など )にとどまり、言葉にしないとか、評価判断しない一般的な訓練を繰り返すが、「心の痛 み」の治療に役立つかもしれない。実際、事故の後の痛みがとれない患者が、おいでにな って、マインドフルネス心理療法を提供した。これを研究していけば、心理療法の選択肢の一つになるかもしれな い。