「ひきこもり」家族の勘ぐりあいの防止は会話
ひきこもりの人が163万人いるという。
ひきこもり・家族の勘ぐりあい
斉藤環氏の「ひきこもりはなぜ「治る」のか?」(中央法規)で、ひきこもりの人がいて会話のない家庭では、こんなことが起きやすいという。
「要するに、子どもがひきこもっている家庭では、いずれ追い出されるとおびえる本人と、ずっとすねをかじられるとおびえる親という組み合わせが、一番ありふれたパターンなのだ、ということです。」(118頁)
ひきこもり・家族の勘ぐりあいを避ける会話
家族が会話しているとこんなことはないが、会話がないと、こういう誤解、勘ぐり、妄想、疑念が起きやすいので、ひきこもりの人がいる家庭では、会話を絶やさないことが大切だという。
ひきこもりの人は他者の支援がなくては復帰がむつかしい方がいます。ただ、家族さえ信用できない人が他者を信用する気にはなりにくい。だから、まず、家庭で信頼できる関係を作る必要があるという。
「家族というのは他者と自己の中間的存在といえます。家族が安心をもたらしてくれなかったら、その先にいるであろう他者が信頼できるわけがありません。だからこそ家族には、本人に対して安心をもたらす他者であり続けてほしいのです。逆に「追いつめれば自立するかも」という思い込みから無用な不安をもたらすことは、社会参加を大いに妨げます。」(138頁)
そのためには、安心(放置ではない)を与えること、良いコミュニケーションであるという。
「家族が与えられる安心は、衣食住の安心でもあり、心理的な安心でもあり、家族関係の安心です。」(119頁)
放置ではいけない。放置では勘ぐりあい、疑念が生じやすい。「良いコミュニケーションが最大の安心の源」(139頁)
「安心させるためには、とにかく積極的に「構う」ことです。会話を通じて、本人に関心を向け続けること。そういう関係をうまく作り上げられれば、本人も安心して、家族に心を開くことができるようになるでしょう。」(139頁)
「良いコミュニケーションが最大の安心の源です。逆に、悪いコミュニケーションは不安の源になります。」(139頁)
メールではいけない
対面の会話でないといけない。メールではいけないという。
「この場合、互いに向き合ってする会話がすべてで、それ以外のやり取りはあまり価値がありません。メモやメール、電話などは補助にしかならないということは、今までも強調してきた通りです。」(139頁)
メールでは誤解、混乱が起こりやすい。
「メモやメールのように、情報量として貧しい言葉は、言葉というよりはイメージに近いものとなり、それゆえに混乱を招きやすいのです。叱咤激励の言葉も、目的がはっきりしすぎている分、やはり貧しいイメージの押しつけになりやすいところがあります。」(139頁)
支援、カウンセリングでのメールも限界
家族でさえも、メールでは、誤解、勘ぐりが起こる。これとは、別問題だが、カウンセリングも、難治性のうつ病、不安障害の治療も、長期間かかるので、メールでは、むつかしい。当研究所では、メールでも電話でもカウンセリングを行なっていない。私どもが扱う問題は、薬物療法や他のカウンセリングで、長期間、治らなかった、うつ病や不安障害の人である。一度も対面したことのない人に、難治性の精神疾患を治すために、メールだけで、課題を助言することはできない。
初回面接してお互い顔を見て、カウンセリングが始まってからでさえも、メールで質問を受けることがあり、回答してあげるのだが、それっきりで、カウンセリングに現われない人がいる。そのメールの回答の貧しい言葉のせいと思われる。
また「わかりました」「わかりません」ということを表明なさらない人がおられる。いつもの反応パターンのようだ。これをなくすには、対面の場で質問していただくと、豊富な表情、ジェスチャーを交えて回答できる。メールでは忙しいこともあり、簡潔、断言調になる。それを読むクライアントは冷たいという感じ、言葉の誤解、勘ぐりが起きやすい。傷つきやすい傾向の人は、拒絶過敏性から、メールの言葉で拒絶されたように解釈することもありそうである。そのことも含めて、傷ついたと感じること、不快なことがあっても受けいれるトレーニングをして、幸福の実現への行動を回避しないことになる。マインドフルネス心理療法の理論から言えば、思いどおりでないこと、不快なことを受容(アクセプタンス)する心のスキル(ストレス耐性が)弱いということ、その結果、自分の幸福を実現するはずのことに集中する心のスキル(マインドフルネス)が弱い。大切なこと(社会参加、仕事、治療する行動など)を回避する。こういうことを克服するスキル習得のトレーニングをする。
メールではできないトレーニングがある。家族との間でさえも不信、勘ぐりがあるのに、他者であるセラピストとの間のメールには限界がある。マインドフルネス心理療法は課題の実践をたくさん助言する心理療法であるので、メールでは難しい。
電話、メールによる相談には、「死にたい」というようなうつ病、不安障害、依存症などを背景にしたむつかしい問題では限界がある。他の現地の支援機関に橋渡しする必要がある。このことは「いのちの電話」の理事の方の意見にもある。(朝日新聞 5/21/2008 「私の視点」)
インターネットだけでは、自殺したくなるほど重症の「病気」の治療は無理である。うつ病、不安障害、依存症などは「病気」である。通所できる距離に、支援の場を設置する必要がある。だから、面接指導できる場を全国に作る必要がある。
本人と家族が行動を
そして、病気の診断基準に合致する「病気」ではなくても、「ひきこもり」の人には対人恐怖、対人緊張、抑うつ傾向が多いのだから、これを改善することから始めたらいい。これも、対面でのカウンセリングでないと治しにくい。そのためにも、家族が変わる、家族が行動することが望まれる。こういうことには、家族のなかに「ひきこもり」うつ病、不安障害などの人をかかえていない人は動きがにぶい。他のことに関心を向けている。本人と家族が支援を求めて動かないと支援の場はできない。
解決までには長期間かかるから、各地域に、対人恐怖、対人緊張、うつ病、不安障害などの心理療法の治療を提供する場所、居場所、デイケアの場を作っていく必要があるだろう。
本人は、対人恐怖、コミュニケーションのむつかしさが症状としてあるので、場を作る行動はむつかしいから、家族に「自分の問題は怠けではなく、対人恐怖、対人緊張のようだ、うつ的なコミュニケーション恐怖かもしれない。理解してほしい。治りたい。」「支援の場所に行きたい」「参加したい」「なければこの地区に居場所を作る行動を起こしてほしい」というような会話をしてもらいたい。
自分ひとりで行動を起こすことが難しい家族は現地の相談機関に相談するという行動から起こしてみてはどうだろう。会話のない状態、会話があっても自分たちだけで出口のない苦しみの会話に終始していては、共倒れになる。家族以外の第3者の支援なくしては、解決はむつかしいだろう。