ニートは病気からも

 最近、「ニート」について関心が高まっている。
 「ニート」とは、通学(Education)も仕事(Employment)もしておらず職業訓練(Training)も受けていない人々、とされる。
 この春、内閣府が発表した推計では15〜34歳の「ニート」は02年時点で約85万人にのぼる。最近、次のような動きがある。

ニート対策には心の病気のことも忘れないで

 働けない(働かない)人たちは、種々の人たちから構成されていると言われている。  (A)(B)は、職業関連の公的機関や財界による就職口の情報提示や就職相談、技能訓練などが提供されることで改善の方向が見える。だが、他に、むつかしいケースがあるようだ。(C)以下の場合には、心理的な問題があるため、カウンセリングが必要な場合が多いだろう。簡単に触れておきたい。

(C)「向いている仕事がわからない」(拒絶性スタイル)

 矢幡洋氏が、「拒絶性スタイル」とニートの関連についての仮説を提言している(注)。 「やりたい仕事がわからない」という表現で、就労しないニートは、「拒絶性スタイル」という行動パターンがあるという。依存性がまさった性格タイプ全般が共通して用いる対人戦略、共通のツールとしてとらえる。
 「拒絶性スタイル」に共通の特徴は、一言でいえば、「消極的抵抗」である。このタイプの人たちは、主に親・教師・職場の上司のような「何らかの要求をしてくる人たち」との関わりにおいて、消極的な抵抗を示す。 「消極的抵抗」のしかたには、人によって、サボタージュ(本当はしたくないような仕事には、故意にゆっくり働いたり、悪い出来になるように見える行動をする。)、 引き延ばし(しなければならないことを延期し、期限に間に合わない。)、 当り散らす(やりたくないことをするように言われた時、不機嫌、ひどく怒る、または、理屈っぽく言う。)などを示す。
 こういう行動パターンをとるために、「仕事につくのに消極的」「職場でうまくいかない」という傾向がある。就職しても、長く勤務できない。

 なぜ、そういう行動パターンをとるのか、どこから来るのか。(1)やりたいことがない、(2) 変化への恐怖、である。

 働けない(働かない)人たちのうち、こういう「拒絶性スタイル」の傾向の人が多いのであれば、支援対策をたてる場合に、こういう心理的な行動スタイルを改善するための支援対策も織り込んでいく必要があるだろう。財界、医師、カウンセラー、NPOなどの連携による支援のネットワークが重要であろう。

(注1)矢幡洋「働こうとしない人たち」(中央公論新社)

(D)「自分の夢にあう仕事がみつからない」(自己愛タイプ)

 自分は卓越した能力をすでに持っているという自己評価が高い。「こういうことをしたい」「こうなりたい」という大きな夢(現実離れ)を持つ。しかし、その実現に向けて、地道な努力をしていないタイプである。
 この心理傾向が強いと、実際に社会に出れば思ったようにはいかないかもしれないという恐れを持っていて、就職活動をしない。自分の夢以外の仕事にはつこうと思わないで、就職範囲が制限される。その実現に向けての、勉強などをするわけでもない。
 いったん、就職できたとしても、対人関係が悪化して職場から離れていく。
 自己評価が強いために、周囲の人を軽蔑したり、こんなつまらない仕事は自分にふさわしくない、自分の貴重な人生がもったいない、などという信念から、他人との関係を乱すような言動をするので、周囲の人との対人関係が悪化して、仕事を継続できなくなることがある。
 「夢にあう仕事」「自分さがし」「自分らしさ」「苦のない精神世界」を求めて、次々と地についた仕事以外のことをしているのも、似たような心理があるだろう。現実の自分、現実の場所をみずに、夢を求め続ける。

(E)以下、心の病、心身症によるもの等

 働きたくても働けない人の中には、心の病気、心身症等による場合もあるだろう。
 うつ病には、「抑うつ」症状、強度の気持ちの沈み、ゆううつ感がある。記憶、判断、計算などの活動も低下する。睡眠障害もある。このような症状のために、一般には、自信がなく仕事に行きたくない、人に会いたくない、ということで、仕事をさがす気にならない。薬物療法を受けない人、薬物療法を受けても治らない人がいる。やむなく働けない(働かない)人となるだろう。

 対人恐怖という障害がある。一人でいる時は、何もないが、人と接触する場面で、不安、恐怖が起きる。対人恐怖には、赤面恐怖(人前で食事できない、会議などで発言できないなど)、表情恐怖(表情や態度を恐れる、面目つぶれの恐怖)、視線恐怖(他人の視線による被害意識、自分の視線で他者を傷つけた加害意識など)がある。重くなると、他者の視線が怖くて小人数の職場にいたたまれなくなって、仕事を継続できないとか、一度、これで退職すると、また同じようなことになることをおそれて就職活動をしなくなるだろう。
 このほかに、不安障害に分類される障害には、パニック障害(はきけ、窒息感、激しい動悸などがいっせいに起きる)、広場恐怖(電車に乗れない、など)、PTSD(外傷後ストレス障害)などがある。また、対人恐怖ではないが、対人コミュニケーション能力の欠如のために、就職を断念する人もいるだろう。
 ほかに、ストレスが関係する身体の病気(たとえば、片頭痛、過敏性腸症候群など)によるもの、純粋な身体の病気によるもので、なかなか、治らないで、働けない(働かない)状況になっている人もいるだろう。

 こういうように、「ニート」といっても、種々のケ−スがあるので、単純な対策では解決しない。働けない(働かない)人たちには、収入がないので、親などに依存していることが多いが、親が高齢化する時が来ることや、親の経済状況が変わった時(親の離婚、失業、定年、病気等)がくることを考えると、早期に、あるいは、その兆候がみられる高校、大学において対策をとるべきであろう。本人と家族と社会組織との連携でとりくまないと解決が困難であろう。

 (E)以下の原因によるニートの場合、就労支援、キャリア・カウンセリングだけでは、妥当な対策にならない。メンタルな治療が必要であろう。