821-(9/30/2006)
同棲女性の2女児を虐待死させる=北海道
I容疑者(29)が同棲(どうせい)相手の幼い娘2人を虐待のうえ遺体を遺棄したとして北海道警に逮捕された。Iは、警察に通報しないように、女性を殴り、脅していた。日常的に暴行を加えていた。今年の夏に知り合い、同居をはじめ、その直後から暴力を始めた。次女(3)は、9月8日ごろ死亡、別のマンションに引越し、長女(4)を虐待、死亡」させた。
調べによると、I容疑者は、この前にも、妻や女性に暴行していた。
現在離婚調停中の妻(31)がおり、長女が生まれた昨年以降、妻と長女に日常的に激しい暴力を加えていたという。妻は今年4月、長女を連れて親類宅へ逃げ、警察署に相談し、札幌地裁でDV(ドメスティック・バイオレンス)防止法に基づく接近禁止命令が出されているという。 妻への暴力は同居直後から始まった。ささいなことで怒り、殴られたという。実子も激しい暴行に遭い、硬膜下血腫(けっしゅ)で意識不明の重体に陥ったこともあったという。I容疑者は、暴力を振るった後は決まって優しくなり、妻は別れることを決断できなかったという。しかし、I容疑者が実子と入浴中、実子が湯船に落ちたとき、しばらく眺めた後にすくい上げて笑っていたのを見て、妻は「一緒に暮らせない」と逃げ出した。
I容疑者は2000年にも、当時交際していた女性への傷害容疑で逮捕され、同年11月に函館地裁で有罪判決を受けている。
(2006年9月25日、28日 読売新聞、朝日新聞 )
こうして、パートナーにささいなことで暴力をふるい、あやまる(見捨てられ不安から)ことを繰り返すのは、境界性パーソナリティ障害の症状に似ている。ささいなことでも激しく怒るという「感情抑制」ができない。不満の程度が、みな、「暴力をふるうほどの」大きいものとなるという、判断基準がおかしい。暴力という行動を抑制できない。一方、見捨てられたくないという不安があるので、暴力を振るったあとで、あやまる。相手は許す(これがために治らない)。しかし、治らない限り、暴力に耐えられず、結局、別れることになる。しかし、本人は「不安」が強いので、一人いられず、また、新しい相手をみつける。また、暴力を振るう。被害者が次々と出る。怒りが、子供に向かうと「児童虐待」となる。
境界性パーソナリティ障害ならば
この事件の場合、断定できないが、虐待、暴力には、境界性パーソナリティ障害の場合もある。境界性パーソナリティ障害ならば、治療法があるので、近くのカウンセラーをさがして、治すべきである。怒りやすいという兆候は、かなり若いころからあるので、早く治療すればよいのだが、親が子の暴力を認めないとか、治療法があるということを知らずに放置することで重症化していくだろう。
感情の障害には、「うつ病」=気分障害、種々の不安障害がある。こういう障害は、自分が苦しいから治療を求める。だが、怒りの抑制ができないという怒り抑制障害は、自分は悪くない、怒らせる相手が悪いと思いがちで、他者に暴力を振るうことで感情(怒り)を発散させて、自分では苦しまない心理傾向があるので、治す必要があると思わず、治療を受けない期間が長く続くおそれがある。
しかし、特に、成人になってからは、そういう激しい怒りを抑制できないと就職や家族関係を維持することが困難となり、受け入れるところがなく、ようやく、自分でも困るようにうなって、「うつ」状態を併発することがある。そこで、親やパートナーの説得により治療を受けることになる。治療は薬物療法や心理療法がある。パーソナリティ障害関連の書物が多数出版されている。なお、境界性パーソナリティ障害が、すべて、「暴力」という行動になるわけではない。
治療には、本人と家族の強い決意と努力が必要になる。アメリカでは、リネハンが始めた「弁証法的行動療法」が効果をあげているという。
家庭内暴力(DV)、児童虐待・虐待死、パートナーへの暴力、など悲惨な事件が多いが、このような障害が背景になっていることも多いだろう。兆候があらわれる若いころから、治療にかかればいいのだが、「怒り」の制御については、学校でも家庭でも理解されておらず、うつ病や不安障害の治療に比べて、治療開始がおくれがちである。