パーソナリティ障害
DSM-IVでは、次のパーソナリティ障害が区分される。
- 妄想性パーソナリティ障害
- シジオドパーソナリティ障害
- 失調型パーソナリティ障害
- 反社会性障害
- 境界性パーソナリティ障害
- 演技性パーソナリティ障害
- 自己愛性パーソナリティ障害
- 回避性障害
- 依存性パーソナリティ障害
- 強迫性パーソナリティ障害
- 特定不能のパーソナリティ障害
このうち、境界性パーソナリティ障害が、「自己洞察瞑想療法」で
軽減される可能性があるので、ここに述べる。
境界性パーソナリティ障害の診断基準
境界性パーソナリティ障害は、対人関係、自己像、感情の不安定および著しい衝動性の広範な様式で、成人早期までに始まり、種々の状況で明らかになる。
次の5つ以上の症状があれば、境界性パーソナリティ障害と診断される。
- (1)現実に、または想像の中で見捨てられることを避けようとするなりふりかまわない努力
- (2)人に対して、時には、理想化、賞賛し、時には、こき下しする、という両極端を揺れ動く、不安定で激しい対人関係様式。
- (3)同一性障害:著明で持続的な不安定な自己像または自己感
- (4)自己を傷つける可能性のある衝動性で、少なくとも2つの領域にわたるもの
(例)浪費、性行為、物質乱用、無謀な運転、むちゃ食い
- (5)自殺の行動、そぶり、脅し、または自傷行為の繰り返し
- (6)感情の不安定(強い不快気分、いらいら、不安):通常は2−3時間持続する。2−3日以上持続することはまれ。
- (7)慢性的な空虚感
- (8)不適切で激しい怒り、または怒りの制御の困難
- (9)一過性のストレス関連性の妄想様観念または重篤な解離性症状
境界性パーソナリティ障害の治療
人格障害のカウンセリングを数多くてがけてこられた磯部氏によれば、人格障害のうちの一部は、治療困難であり、治療法が確立されていないものがある。しかし、人格障害の一部は、長くかかるが、治癒するものがあるという(1)。わが国でも、パーソナリティ障害の治療に関する本が多数出版されている。そういう研究者の紹介する治療が効果がある人もいるので、治療を受けるべきである。
新しい可能性として、東邦大学医学部の研究によって、坐禅や腹式呼吸法がセロトニン神経を活性化させ、うつ、怒り、不安などの感情を抑制する力、ストレスに対処する力ができることがわかった。
これは、感情の抑制、不満な状況を受容する訓練が含まれているが、境界性パーソナリティ障害に対しては、アメリカでは、弁証法的行動療法が効果をあげているという。
「自己洞察瞑想療法」でも、単なる腹式呼吸法や坐禅ではなくて、さらに、心を洞察する手法、固定観念や認知のゆがみなどを自覚することを通して、この障害の改善を期待できる可能性がある。
「自己洞察瞑想療法」で治療するとすれば、他の障害と同様に、行動的手法、認知的手法、自己洞察法を用いることになるだろう。
- 感情、衝動の心を洞察しながら行う呼吸法や自己洞察法が指導される。注意集中法、不要機能抑制法、徹底受容法、機能分析法など。
- 特に、激しい怒りや衝動が、この障害の特徴であるが、対象に強く長く執着する傾向を変えるために、呼吸法や自己洞察法を訓練して、執着から離れる鍛錬を行う。
- 不安定な感情、激しい怒り、衝動的な行動が特徴であるが、呼吸法や自己洞察法は、セロトニン神経を全般的に活性化して、感情、衝動を抑制する効果が期待される。
- 怒りや衝動には、先行する自動思考、認知のゆがみからの連合がみられるので、固定観念や認知のゆがみの修正に取り組む。見捨てられるという観念、自己像、自殺行動、空虚感、など独特の観念を修正する。このような固定観念や認知のゆがみが必須である。
- ストレス関連性の妄想様観念があれば、これも、自己洞察法によって軽減させる。
当方でも、この症例のカウンセリングを行うことがあるが、途中で、来談されなくなる事例が多い。クライアントとカウンセラーの双方に、相当の努力が要求される。
真剣な家族が、自ら改善していくための参考書もある。暴力は絶対に許さないという約束を守ることが治す大前提である。
アメリカでは、自己洞察法に似た瞑想をとりいれた「弁証法的行動療法」で、境界性パーソナリティ障害の治療に効果をあげている。今後、日本でも、専門家がこの治療法の研究にとりくむ価値がある。当協会には、施設や人的余裕がなくて、将来の課題である。
(注)- (1)「人格障害かもしれない」磯部潮著、光文社新書
パーソナリティ障害
自殺未遂患者6割、境界性パーソナリティ障害