サリン被害者の脳「縮小」 不調続く原因か

 95年の地下鉄サリン事件で被害を受けた人たちの脳にサリンの影響で縮小したとみられる形の違いがあることが、東京大病院の助教を務める山末英典医師(精神神経科)らの研究でわかった。被害者の中には、いまでも疲労感や動悸(どうき)といった不調に悩む人が少なくない。  被害者は、左右のこめかみから4〜5センチほど内側にある脳の「島皮質」や「海馬」などの体積が、被害のなかった人より小さかった。
 これらの場所の体積の違いで、動悸や息苦しさなど長期的な後遺症の度合いに差があり、サリン中毒の程度を示す血中酵素の低下が激しいほど体積は小さい傾向があった。サリンで損傷を受けたことで痛みや疲れに敏感になり、不調に悩むなどの後遺症につながったと考えられる。
 サリン事件の被害者は、昨年秋の検診で、なお、「頭痛がする」「目が疲れやすい」という症状があるという。 こうした後遺症は、実は脳に起きた損傷による可能性が出てきた。
 研究グループは以前、事件後に心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断された人たちで、感情の制御にかかわる脳のある部分が小さかったことを報告している。今回は場所が異なり、サリンそのものの化学的影響の可能性があるという。 ( 2007年04月29日 asahi.com 朝日新聞 )
 一般的なPTSDの場合、もともと海馬の容積が小さい人が、生命をおびやかされるような事件、事故、災害に遭遇すると、PTSDになることがあるという。  脳部位の縮小は原因側である。
 ところが、このサリン被害者の場合、脳部位の縮小は、結果の側にあるということになるようである。  PTSDの治療法は、薬物療法、認知行動療法、EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)、マインドフルネス心理療法などがあるが、PTSDとは少し違うようにみえるサリン被害による後遺症には、同じような治療法で効果があるのだろうか。
 脳部位の縮小と事件、事故、災害の被害==>種々の症状という点では、類似する。
 サリン被害は、2つの要因がほぼ同時生起で、順序が逆である。だが、2要因が満たされて後、しばらくしてから症状が起こり長期間にわたり、症状が続く。

 脳部位の縮小により心理的なストレス処理がうまくいかなくて、ストレス過敏、交感神経などの過敏によって、身体症状が起きるのであれば、PTSDの場合に効果のある薬物療法や心理療法も効果があるのだろう。今後、治療法の研究がすすめられるそうだ。