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がん患者と看護師(2)
=看護師が燃え尽きないために
看護師は、実にストレスの大きい仕事である。燃え尽き(バーンアウト)が多いという。
「「燃え尽きない」がん看護」(医学書院)という本は、その対策を教えている本のひとつである。種々のストレスについて別々に対策が考えられているが、最後の対話から、重要な点をみておきます。
平山さんとの対談で、「燃え尽きないで長い間勤めることのできる人、生き残っていく看護師さんの特徴」はという質問に対して、安達さん(注1)は、次のように答えておられる。
「冷静さですね。自分の立場を客観的に見ることができる人。客観的に自分の位置が見える人。たとえば「いま自分は巻き込まれてしまっているな」と見えることが大切です。それが見えないと、患者さんの感情に巻き込まれていってしまう。そしてどっぷりつかって、一緒に泣いたり、一緒に苦しんだりしてしまう。それでは家族と同じです。毎日のように家族に死なれるような感情の消耗では、プロとしてやっていけません(笑)」(181頁)
自己洞察法は、マインドフルネス、アクセプタンスの精神スキルの訓練を行う。これは、心理の全体図の自覚、精神活動の関係づけ、自己の精神活動を客観的な立場から観察する訓練を行うので、安達さんがいわれるような心が向上するに違いない。
原初の認知療法のように、「思考の内容の修正や変容」をもたらすものの、直接的にそれを治療法の目的とする傾向よりも、メタ認知のレベルの変容を起こすことをねらい、問題の改善を実現する。
認知内容ではなくメタ認知のレベル
「気づきとアクセプタンスを促進するための実践としてマインドフルネスを統合することは、CBTの「C」である。CTの進化と捉えることができる。なぜならば、マインドフルネスは(べック式の伝統的なCTのように)思考の内容の修正や変容を目的とせず、メタ認知のレベルで機能するからである。人によっては、こうした動きを革命的な進化と捉え、「徹底的認知主義」の発現とさえ呼ぶかもしれない。」(390頁)
心が機能しているかという「全体図」への自覚
「マインドフルネスの実践は、どのように心が機能しているかという「全体図」への自覚を増大させる。また、思考や感情が生成されるとき、マインドフルネスは、どのような注意の対象にも執着したり拘わったりすることなく、広い視野をもてるように気づきのカメラをずっと後方に配置する。さらに、瞑想の実践を重ねるうちに、思考や意図(心の所作)、あるいは感情や感覚(身体の所作)は、様々な要素により決定されており、また文脈的な因果関係があることを深く理解するようになる。」(390頁)
自己洞察瞑想法の技法を、次の記事に示したが、上記のような、みかたが養われるかもしれない。
呼吸や目前の感覚に注意を集中する訓練(選択的注意法)を行い、過去のことなどの思考に落ちたらすぐ放ち(注意解放)、呼吸や目前のことに注意を向ける訓練も含まれる。
ワーキングメモリ(作業記憶)、つまり、意志作用の活性化である。
一人の患者の言葉、行動、出来事にとらわれていると、現在、他の患者のためにする処置がおろそかとなり、ミスを犯してしまうが、こういう訓練は、そういうことに固執せず、過去を放ち、今のことに、向かう心を向上させることに役立つ。
機能分析法で、常に、自分の精神活動を洞察する訓練をするので、安達さんがいわれる「客観的に自分の位置が見える」という心のスキルを向上させて、燃え尽きにくい看護師を育てるのではないだろうか。
上記の図で、見るように、感覚、思考、感情、衝動、行動が動いていく(油断すると、暴走する)のを、高い位置から、これらに注意を集中し、解き放ち、抑制し、コントロールして、冷静な判断・行動をしようという洞察を常に行っているのが、自己洞察法であるから、看護師の方に、行っていただくといいのではないだろうか。
- (注1)平山正実氏、東洋英和女学院大学大学院教授。
安達富美子氏、東京歯科大学市川総合病院看護部長。