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がん患者と看護師(4)
=看護師が燃え尽きないために
看護師は、苦悩に満ちた患者に接する、ストレスの大きい仕事である。燃え尽き(バーンアウト)が多いという。燃え尽きは、うつ病である。看護師が、うつ病にならないようにしたい。
「「燃え尽きない」がん看護」(医学書院)という本で、その対策を論じている。種々のストレスについて別々に対策が考えられているが、最後の対話をみています。
平山さんとの対談で、「燃え尽きないで長い間勤めることのできる人、生き残っていく看護師さんの特徴」はという質問に対して、安達さん(注1)の対談が、さらに続く。
看護師は、患者からエネルギーをもらうという。
安達
「そうです。けっして、いつもクールで物事を冷静に見られるだけでは、看護の仕事は面白くもないし、やりがいもないと思います。やはりわれわれが、看護は大変だと言い続けているのは、私たちが人間のつらい場、マイナスの場に立ち会った人間として、少しでも、エネルギーを差し上げることができると思うからです。」
(少し、とばします。)
平山
「安達さんが、看護に携わっていて患者さんからエネルギーをもらったということがあるのはどういう場なんでしょう。」
安達
「やはり人と人、人間と人間が対して、そこでどういうふうなせ精神的、心的交流がもてるか、それにつきると思います。
患者さんとともに喜んだり、泣いたりすることでしかわれわれはエネルギーをもらえないのです。」
(安達さんによれば、具体的には、「看護師に、こういうふうに言われてうれしかった」という声を患者から聞く、「娘でもやってくれないことをしてもらって」嬉しい、「自分が生きてきたなかで、これだけの感動はなかった」というようなことを言ってくれること、など)
安達
「そういう言葉を日々、ナースはたくさんもらっている。それを多く感じとれる人、あるいは逆に、患者さんにそう言わせるようなものを提供できる人、そういう人は、燃えつきどころか、明るく、たくましくやっていきます。」
(182−4頁)
いつも、嬉しいことばかりではないが、さっきの患者のことで、つらい感情をひきずって、次の患者に向かわないような、心の切り替え、冷静さが求められるが、喜びなどの暖かい感情を起こさないというのではない。患者との暖かい交流が大切で、患者から言われる感謝の言葉によって、看護師は、励まさせる。だから、心の切り替えとか、冷静さということは、嬉しいことに感動しないということではない。人というものは、打算や金銭のみで行動するわけでもない。怒り、不安、恐怖、ゆううつなどの陰性の感情はさけたいと思う。逆に、楽しい、嬉しいという陽性の感情は、もらいたいと思うものだ。患者からの感謝の言葉などを聞いて、嬉しい。それが、看護師には励みになる。(感謝の言葉を言われることを嫌う人もいるが、対人関係を結ぶことがさけられない看護師、暖かい気持ちが容態に影響する病院にあっては、感謝の気持ちの表現は、重要な意味を持つ。)
時には、つらいことがあるのだが、それを打ち消してくれる。つらい感情は、尾をひかないように、心を切り替え、嬉しいことを言われたら、その瞬間、本当に喜び、この仕事をしていく励みとし、エネルギーをもらう。
だが、喜ばれようという気持ちが強すぎると、相当の努力をするから疲れてしまう。はからいせずに、患者さんをよくみて、自分がこうすべきだと感じることを(こういうことをするとつらい感情を起こさせてしまうから、それは避けようと注意しながら)行動して、結果的に喜ばれるのが、燃え尽きないコツだろう。患者は、病気でつらい状況にあるので、なかなか他者(看護師)に感謝の気持ちさえも、伝える余裕がなさそうに思えるが、そういう患者さんがいる。何と心の寛い人だろう。そういう患者さんからはたしかにエネルギーをもらうだろう。がんの闘病は、患者にとっては、つらい場だ。そんな環境で、感謝の気持ちを起こさせてくれる看護師は、すばらしい。末期がん患者の場合、特に、看護師のこういう役割は重要である。人生の末期において、感謝の気持ちを感じることができた患者は、苦痛がやわらぐ。本当に、重要な職業だ。
- (注1)平山正実氏、東洋英和女学院大学大学院教授。
安達富美子氏、東京歯科大学市川総合病院看護部長。