逆転移=救済・カウンセリングのむつかしさ

 精神科診療、カウンセリングは、他者の支援にあたる行為であるが、それは、時に、援助者(精神科医、カウンセラー)にとって、つらい状況に追い込まれることがある。精神療法、カウンセリングは難しい職業である。精神科医、カウンセラー自身が感情に巻き込まれたり、心の病気になったりしかねない。
 治療者の資質、条件として、クライアントとの間で起きる可能性のある感情を処理できるような人であることが必要である。他の職業とは異なる資質が要求されるだろう。
 自己洞察瞑想療法は、自分の思考、感情、欲求などを常に洞察することを実践することを教えるので、現代の心理療法の援助者がおちいる逆転移、自身のストレス緩和に貢献するだろう。

医者、カウンセラーがクライアントや家族から感情的に扱われる

 次のような症状が、一部の精神疾患にあらわれる。患者、クライアントからのこうした態度が援助者に向けられることがある。  カウンセリング、治療のための助言に対して、悪意にとったり、激しい怒りでかえってくる場合がある。援助者は、これに適切に対処しなければならない。援助者が感情的に返すとこじれて、治療どころではなくなる。
 また、上記の症状に病識のないクライアントもいる。おとずれるクライアントが、自分では、「こういう病気です。こういう症状があります。」といっても、そのほかに、上記の症状が強いことがある。クライアントが申告してきた(治したいと言ってきた)障害(A)を治療しようとしても、上記の症状(病識がないB)が並存しているクライアントの場合には、障害(A)を治療しようとして、助言した時に、別の症状(B)があるために、援助者の言葉に、思いもしなかった反応をする場合がある。援助者が、クライアントから、治療能力への不信の言葉をあびせられたり、助言の言葉を悪意にとられたり、激しい感情をぶつけられることがある。

逆転移

 援助者の情緒反応を「逆転移」という。クライアント本人やその親との間で、援助者が感情的な反応を起こす。クライアントに肩入れするあまり、親に批判的になったり、逆に親に共感して、本人に厳しく応対する。家族から、治療がまずいから治らないと攻撃されたりする。
 本人に激しい部分を感じると脅えて、援助者は過剰にやさしく接したくなる。  こういうことがあると、援助者が、十分なカウンセリングをためらったり、自分を責めたり、同僚から批判されたりすることがある。しかし、これは必ずしも責められることではないとされる。援助者が、「一時的に相手の身になっている」という経験をしている。クライアントや家族の心を経験していることになり、本人や家族の問題を理解できることになる。
   こういう状況の対処がまずいと、援助者自身がうつ病などの精神疾患になったり、クライアントにあうことを避けたくなるおそれがある。
 このように、援助者(精神科医、カウンセラー)は、クライアントから、常に尊敬されるわけではない。つらい状況に追い込まれることがある。

 自己洞察瞑想療法の手法は、もちろん、クライアントの治療のためにクライアントに実践するように指導される。しかし、援助者自身が、これを実践すると、援助者が、クライアントからの感情的行為や逆転移に対処する力を向上させるであろう。呼吸法や自己洞察法を常に実行して、クライアントに接する時、過剰に解釈し反応せず、冷静に受け止める訓練をしていく。自分の感情についても、それに過剰に反応せず、心を息などに転じて、冷静にしている訓練をしていく。また、たとえ、うまくできなかったと思われる対応をしても、過去を思わず、自分を責めず、相手を責めず、現在のことを処理していくという訓練を常にしているので、自己嫌悪、他者憎悪、うつ病などに陥りにくいだろう。こうして、自己洞察瞑想療法は、援助者(精神科医、カウンセラー)にとっても、逆転移の対処、ストレス緩和に貢献するのである。
 さらに、このことは、すべての医者に言えるであろう。どの医者でも、自分の処置した治療についての問題で悩むとか、患者や家族との反応で、医者が、感情的な問題を感じたり、うつ病になることもあるだろう。自分でも、家庭の問題、健康の問題、医院経営の問題などで苦悩するだろう。すべての医者が、自分の思考、感情、衝動的な行為、患者や家族を傷つける言葉・行為を洞察すべきである。そこに、自己洞察瞑想療法が貢献するだろう。