自傷行為・幼少期の精神的暴力から

 子どものころに家族から精神的暴力を受けた経験のある人は、そうでない人に比べ、リストカットなどの自傷行為に走るリスクが約9倍になる。鹿児島大学心身医療科チームの調査でわかった。九州の大学生1600人に、アンケート調査した結果である。(朝日新聞、1/22/2006)
 子どものころに、家族、教師、友人などから精神的な暴力を受けた人は、中・高校生・大学生のころ、リストカット(男性は、タバコ押し付けや壁に頭をぶつけるなども)を行うようになるリスクが大きい。子どもの頃にも、つらい体験をした人が、青年期になったころ、また、リストカットせざるをえないようなつらいことを経験している。同じ人の異なる時期の「不幸の連鎖」である。その人が、子をもった時に、自分の情動を制御できず、我が子につらくあたる(虐待も)こともあることが報告されている。世代を超えた「不幸の連鎖」である。こういうことを解決するために、今、つらいことを感じて、今、自傷行為をしている、その人が、治してほしい。
 その時、自分がこんなになったのは、親のせいだ、教師や友人のせいだ、と他者への怒りを持続しているだけでは、問題は解決しない。他者を恨む時に、また、自分の感情・情動が経験されており、今、また、つらくなり、情動の回路を過敏にする。リスクは高いが、そういうことをしない人もいる。今、自分が変われるところを変えないと、つらい日が続いてしまう。 現在も、種々のストレスがあり、つらいことがあるだろうが、その感情を克服する方法をカウンセラーなどに、教えてもらってほしい。
 子どもの頃に、ストレスを受けた子は、自傷行為に走るリスクが高いということは、情動に関係する脳部位(どこであるかはまだ解明されていない)に脆弱性(または過敏性)という「傷」が残っているということを示唆する。改善しないと、一生、それが改善されず、世代を超えた不幸を起こすリスクが高くなるから、カウンセリングを受けたほうがよい。自己洞察法も、感情についての処理法を学ぶが、短期間では、習得されないので、近くのカウンセラーでないとうまくいかない。ほかのカウンセリング技法もあるだろう。もし、自傷行為の改善に、有効なカウンセリング技法がないならば、大きな問題である。自傷行為で苦しむ若者が多いのだから、臨床心理関係者が、その治療法の開発に、早急に取り組むべき課題だといえる。
 しかし、一方で、親や教師、友人は、自分のゆがんだ見方、自分の感情から、子どもに、精神的な暴力を与えると、その子に一生、そして、世代を超えて、トラウマを植え付けてしまうことになるリスクが高いことを理解して、いじめ、精神的な暴力をしないでほしい。それが、心豊かな社会を作ることになる。
 自傷行為をすることになる原因は、親や教師にあったかもしれないが、本人をカウンセリングする時には、他者を追求せず、本人の心を観察してもらう手法を取るのが、自己洞察法である。弁証法的な側面の一つのあらわれだろう。他者を追及することによっては、自分の脳部位にある脆弱性が改善されないことがある。セクハラによるトラウマ(PTSDやうつ病など)も、告訴して加害者が刑事罰を受けても、被害者のトラウマが治らないことがある。