虐待された経験から反社会性パーソナリティ障害

 =奈良女児殺害の被告、幼児期から虐待、いじめにあった

 奈良市の小1女児が04年11月、下校途中に誘拐され殺害された事件で、殺人やわいせつ目的誘拐など八つの罪に問われた元新聞販売所従業員(37)の性格や心理状態などを分析した情状鑑定書が2月14日、奈良地裁に提出された。鑑定書は、小林被告の性格に犯罪傾向を伴う深刻な偏りがあり、精神医学的に「反社会性人格障害」「小児性愛」と診断される、と指摘。
 このような性格の偏りが生じた理由としては、幼児期から続いた父親による虐待と、幼稚園や学校でのいじめによる人格発達障害が大きな影響を与えたと推察。ただ、「供述の評価には慎重さを要する」として、断定を避けた。
 反社会性人格障害は、自分の快楽や利益のために他人の権利を侵害するなどしても罪悪感を感じる能力が欠けている場合に診断される。 (朝日新聞 2/15/06)
 この被告は、虐待、いじめにあっていて、それが、こういう殺害事件を起こした要因の一つになっている。人間は、感覚、思考、感情、欲(報酬系)、衝動、行動出力などの種々の活動(精神作用、身体行動など)を遂行する、それをコントロールしないと、他者や自分を苦しめる。「苦しめる」ということは、陰性の感情(怒り、不満、悲哀、不安、恐怖、後悔、くやしさ、憎悪、ゆううつ、等)が長く続く。虐待やいじめにあうことは、加害者が自分につらさ、苦しさを加えるが、どうしようもなくて我慢し続ける。内面では、不満、憎悪、くやしさ、などが渦巻く。そこで、通常の精神作用の成長が変わるのだろう。やがて、自分が、自分の感情、欲望、衝動、異常な加害行動を抑制できなくなる割合が高くなる。種々の行動を起こす。
 虐待やいじめは、その時だけ被害者を苦しめるのではなくて、成長してからも人を苦しめる。人間不信、感情・行動の抑制困難となる割合が高くなる。虐待や、小中学校での「いじめ」をなくしてもらいたい。いじめる側も、自分の感情を抑制していない。そこには、家庭での夫婦・親子間の葛藤、子供への教育も問題だろう。
 (もちろん、虐待、いじめを受けた人が、すべて、成長してから、感情・行動を抑制しにくくなるというわけではない。そのつらい過去を克服して、幸福になる人も多い。割合のことである。)

 自己洞察瞑想法は、注意、感情抑制、行動抑制などの精神作用を意識下と意識上の両側面から、向上させようとしている。他の心理療法も、そういう要素がある。だから、薬物療法とは、別のすぐれた効果がある。しかし、反社会性パーソナリティ障害は、カウンセリングが困難とされている。カウンセリングするためには、クライアントが、自分で変わりたい、そのためには、カウンセラーの指導に従うという意識が必要であるが、その努力をしてくれるかどうか。

(参考書)
「親子再生 虐待を乗り越えるために」(小学館) 児童虐待の相談員を8年間務めた佐伯裕子さん(50)が、約2000件の相談を受けた体験をもとに、解決に至った例をまとめた。