親と子 何が起きているのか

 東京都、千葉で、二十代と三十代の若者による両親殺害と自殺の事件があった。東京新聞の社説が、これを扱った。

 「杉並区の長男は米国の大学を修了して帰国後、就職がうまくできず、次第に引きこもるようになったという。就職をめぐり親子の確執があったようだ。習志野市の二男も大学を退学し、親子で暮らしていた。こうした不安定な状態が重荷となったのだろうか。」

 「非正社員は六百六十万人、働きも学びもしないニートが約六十四万人に達し、さらに増える傾向という。今回の事件は人ごとではない親も多いだろう。」

 「若者の雇用不安定化は、家庭や社会にも影響する。政府もニート対策に乗り出しているが、官民が連携して取り組んでいくことが必要ではないだろうか。」

 「若者には反抗期があり、親への憎悪も伴うが、葛藤(かっとう)を乗り越えて成長する。現代には成長の時間すらないだろうか。」

 「少子化で親が子供に関与しすぎて自立心が育たないまま成長すると、非難の矛先が親に向かうともいう。親子関係や家庭の根本的な見直しも必要かもしれない。」

 「家庭や社会が若者をどう自立させるか、社会全体で問われている。」
(東京新聞 06/01/2006 社説より一部引用)


 ここに、家庭問題と社会問題の両方が指摘されている。 厳しい雇用環境は社会問題であるが、「親子関係や家庭の根本的な見直し」も指摘されている。親があまりに厳しすぎるとか、他の兄弟と比較されて、しかられることが多いと、子供にとって、愛情不足を感じ、家庭がやすらぐ場所ではなくなって、親の批判の目を気にしてびくびくして家庭も、やすらげない。常に、不安を抱き、後に、心の病気を起こすかもしれない。
 逆に、あまりに親が甘すぎたり、世話をやきすぎたり、進路を親が決めたりすると、社会に出た時に、厳しい職場では、自分で対処しなければならないが、親が世話をやきすぎて育てられると、小さなストレスでも挫折するかもしれない。
 両親が不和で、暴力をふるう家庭では、子どもが常に不安を感じて、豊かな感情がはぐくまれず、青年期に、心の病気を起こすかもしれない。
 家庭環境が厳しくても、たくましく成長する子もいるが、挫折しやすい子もいる。学校や職場で、うまく、適応できないで「ひきこもり」がながびくと、苦しみが大きくなって、何かのきっかけで大きな出来事があって感情的になると、不満・怒りの矛先が親に向かうのだろう。あまりに、甘やかすのもだめ、あまりに厳しいのもだめ。両親が不和であっても、子どもの心が安定しない。厳しい経済環境のために、親がストレスを強く感じて、家庭で、おだやかに、愛情深く子供に接する余裕がなくなっている家庭もあるようだ。子育てはむつかしい。だが、それでも、社会問題として社会全体の改善をすすめるほかに、自分の家庭で改善することもあるだろう。
 「ひきこもり」の子がいる場合、親が子を責めても、子が親を責めても解決せずに、増悪・不満がうずまき、心の病気の悪化や悲劇が起きる。子のなにがひきこもりを起こしているのか、カウンセリングを受けて、問題を明らかにして、問題を解決しなければいけない。うつ病や不安障害があれば、いくら、就職先を提供しても、就職できない。就職しても、その障害のために、自ら退職してしまう。いかに、強く責められても、出ていけない精神障害もある。まず、原因を明確にするところから始めるのがよいだろう。ただ、うつ病も不安障害、依存症、自傷行為も、薬物療法で治らないこともあって、苦悩が解決しない。これは、医療の遅れという社会問題も重なっている。
 学校教育が、知育偏重になっていて、豊かな感情の成長、他者の苦の共感、人格形成がおろそかになっているようで、気がかりである。