CBASP=アメリカの新しい心理療法
(慢性うつ病の新療法:CBASP)
第1章 慢性うつ病患者の治療に際して治療者が遭遇する問題点
アメリカで開発された慢性うつ病の心理療法の概略をみていく。
第1章に、次のことが記載されている。10年以上の臨床経験を有する熟練した、認知行動療法家「ビル」が、慢性うつ病患者の「ケン」(43歳の男性、ハーバード大学でMBAの学位をとった)について、次のことがあるという。
「ケンの長年にわたるうつ病は、思春期に早発性気分変調症として始まった。以来数十年の間に、彼は4度の大うつ病エピソードを経験し、エピソードの合間は気分変調症のレベルに戻っていた。」(3頁)
彼は、精神療法に加えて、イミプラン、ついで、SSRIを服用したが、改善はみられなかった。ケンの精神療法を担当しているビルは、ケンに改善がみられないので、ビル(治療者)が、絶望感、無能感、不満感を持つ。ビルは、ケンに種々の心理療法(認知の修正を含む)を試みたが、みな、失敗した。ビルは、ケンの認知、信念を変えようとするが、ケンの態度について、「自分の非論理的な思考法に対する反論を受け入れようとしない」とこぼす。「宿題を完全にやってくることはなかったし、セッションとセッションの間に練習させようとしてもうまくいかなかった。」(4頁)
慢性うつ病患者を扱う場合、治療者と患者の双方が絶望感をいだく。
「慢性うつ病患者の治療は、精神療法家の直面する最も難しい問題の1つである。この難しさは、次のような事実のためにさらに厄介となる。
つまり、こうした患者のほとんどは絶望感を感じていて、変わろうとする動機に欠け、ゆえにこうした人たちの治療をするのは対人関係上難しいのである(約半数の患者は、依存症としてU軸障害の診断基準を満たすであろう)成人の慢性うつ病患者の典型例は、破滅的な生活スタイルを頑なに続ける患者である。」(4頁)
(大田注)
慢性うつ病患者は、こうした傾向があるのであれば、薬物療法だけでは、治りにくいだろう。そこで、開発されたのが、CBASPであるが、治療者と患者に、相当の根気が必要となる。治療者は、認知療法とは異なる手法を習得して、患者に適用する。これから簡単にみていく。
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「慢性うつ病の精神療法〜CBASPの理論と技法」
原著者:ジェームズP・マカロウ、
監訳者:古川壽亮(名古屋市立大学)、大野裕、岡本泰昌、鈴木伸一
発行:医学書院、2005/11/1、定価:5775円
CBASP=Congnitive-Behavioral Analysis System of Psychotherapy; 認知行動分析システム精神療法
(慢性うつ病のみに開発された精神療法である)