自己責任
CBASP=アメリカの新しい心理療法6
(慢性うつ病の新療法:CBASP)
第2章 慢性うつ病患者とCBASPプログラムについての序説
アメリカで開発された慢性うつ病の心理療法の概略をみていく。
第2章に、慢性うつ病の従来の治療法の効果とCBASPの特徴が述べられる。
CBASPの特徴の中で述べられている「自己責任」について。
自己責任
慢性うつ病の治療法、CBASPを開発したマカロウ氏は、慢性うつ病を治すことについては、患者が自己責任を持つという。
慢性うつ病の場合、発症のきっかけが、たとえ、過労、社会のしくみの不備や他者からのいじめなどによって起きたとしても、病気そのものは、自分が変わらないと治らないというのである。
再発防止や同様の被害者が再生産されるのを防止するには、問題ある社会の仕組みを変えたり、加害する人を教育しなければならない。正確には、それは別の対策が必要である。マカロウ氏がいうのは、病気の治療そのものである。薬物療法で、治らない場合、自分の心理的な対処を変えていかないと治らない。自己嫌悪や絶望などの反応の繰り返し、特有の対人関係コミュニケーション方法などの克服法の術を、指導者から指導されるが、変えていくのは、患者自身である。
たとえば、次のような例である。
- セクハラ、いじめによって、うつ病となり、その会社や学校から離れても、ただちに、うつ病が治らない人がいる。治らない心理作用、認知感情行動などのパターンを変えていかないと治らない。
セクハラした人、いじめた人を告発することは社会問題であり、他の人に同様の被害がひろがらないようにするのは必要である。だが、告発しても、この人自身のうつ病は、治らないことがある。この治すという時に、患者本人に、治すことについてのパターンの選択が本人にまかされる。
- 過労によって、うつ病になった場合、休職して、過労状態から解放されても、うつ病は治らないことがある。治すのは、患者である。過労問題を改善するのは、経営者や労働組合や政府などの活動によるが、うつ病になってしまった人の病気を治すのは、患者自身である。薬物療法を受ける、心理療法を受ける。心理療法のうちでも、慢性うつ病患者の場合でも、教えられる治癒術を行うことを選択するか、自己否定、自己嫌悪、逃避などの思考感情行動パターンを選択し続けるか、それが、患者自身である。
- 他の障害も同様である。パニック障害、対人恐怖、依存症、自傷行為なども、原因の一つに、両親の不和、虐待、いじめなどがあったから、青年期になって、発症したにしても、両親を責めても、今の病気が治るわけではない(だから、そういう問題の再生産の防止は、社会問題として取り組む必要がある。それは、カウンセラーでなくてもできる。治療のスキルとは別のことである)。こういうつらい目にあっても、すべての人が、発症するわけではない。発症しても、治癒した人もいる。そういう治癒例に学ぶ。いくつかの治癒した心理療法が研究開発されてきた。
本人の病気、障害、苦悩を、今、治すところには、自分で思考感情行動の悪循環のパターンを選択するか、それ以外の感情処理、行動パターンを選択するか、本人にまかされている。1回だけカウンセリングを受けてやめるか、継続するかの選択も、本人まかせである。自分の病気を、他者は代わってやれない。心の病気を治療する場合、本人の感情・行動パターンの選択が大きい。自分の人生を自分で選択する。瞬間、瞬間、その選択の連続である。
図は、マインドフルネス心理療法に類似する「自己洞察瞑想療法」の概念図である。講演で用いる図である。瞬間瞬間、選択の時である。悪循環か、改善克服への道かの選択が、常にある。
「私はまた、慢性うつ病患者は自分のうつ病に対し最終的に責任があるという意見を支持している。」(15頁)
患者が、今までの思考パターン、感情処理パターン、行動パターンを、自ら変える必要がある。従来のパターンと新しい反応パターンのどちらを選択するかは、患者自身である。
「患者は自分の行動が対人関係の帰結を招いていることを教えられ、どうすればこれらの帰結を認知できるかの術を教えられる。その後同じパターンを続けることを望むかどうか決めるのは、患者の責任である。」(16頁)
患者は、今後の人生を選択できるのである。その選択によって、病気の維持の道を選択するか、治癒への道を選択するかは、患者にまかされている。
「患者は自分がどのような人生を創り上げてきたかに気づくようになって初めて、前とは違う方法で生きるという選択をすることができるようになるのである。
慢性うつ病の患者が自分のうつに責任があると私が想定するのは、自分の人生の生き方は選ぶことが可能なのだと信じる見方に由来する。選択ができなければ、患者は責任を持ちえない。経験の奴隷にとどまる。」(16頁)
この時に、治癒への道を指導者が示す。指導者は、それを示す必要がある。例としては、認知療法、対人関係療法、行動活性化療法、マインドフルネス心理療法、それに、このCBASPなどが、うつ病に効果があるとされる。こういう治癒の術を示して、その示す治療プログラムを実行するかどうかは、患者自身の選択である。
うつ病患者に特有の(A)従来の思考感情行動パターン(うつ病を継続する、悪循環のパターン)を説明し、(B)それから離れるパターンを説明し、術を教える。そのどちらを選択するかは、患者自身である。
このような見方は、アメリカのCBASPの考え方であるが、私どもの自己洞察瞑想療法でも似ている。
(全く同じではないかもしれないが、ここは、簡単な書籍紹介であるから、厳密な区別はしないでおく)
カウンセラーは、患者の役割ははたさない。思考感情行動する役割は患者自身の役割である。患者が自分で、悪循環の思考・感情・判断・行動のパターンではない別の選択を自分でできるように援助する。スキル向上の術を会得するのを支援する。従って、思想や観念の押し付けは、ない。感覚、思考、感情、身体反応、判断、行動などの事象の観察方法や対処法を提案する。採用して、従来のままから変革を起こすか、拒否して従来どおりの生活を継続するかまたは、他の治療法をさがすか、そういう選択は、患者自身である。