併存症、心理学的特長
CBASP=アメリカの新しい心理療法
(慢性うつ病の新療法:CBASP)
第4章 経過のパターン、依存症、心理学的特長
アメリカで開発された慢性うつ病の心理療法の概略をみていく。
第4章 経過のパターン、併存症、心理学的特長
ついで、併存症、心理学的特長をみる。
大うつ病と気分変調症の併存
大うつ病と気分変調症の併存する患者は、重症の大うつ病エピソード(自殺のおそれがある)の再発を繰り返しやすいといういくつかの研究報告を紹介している。
「先行する気分変調症は、治療・未治療にかかわらず、大うつ病患者にエピソードの反復する高い危険性をもたらす。」(59頁)
パーソナリティ障害の併存
慢性うつ病の患者のうちに、かなりの多く、パーソナリティ障害を併存している。その場合、治療が難しくなる。
「最近の総説で、私は慢性うつ病の外来患者のうち、約50%にパーソナリティ障害の併存することを報告した。パーソナリティ障害の大部分は、クラスターB(演技的、感情的、不安定)かクラスターC(不安、恐怖)に分類された。」(60頁)
「慢性うつ病の患者に併存するU軸の障害が診断された場合は、治療はより困難になり、良い結果を得ることはさらに難しくなる。」(60頁)
未治療の慢性うつ病成人の心理的特徴
「われわれの研究グループは、一連の縦断的研究において、未治療の慢性うつ病成人58例の心理学的特徴を検討した。」として、いくつかの特徴を記している。項目だけをあげておく。
- 神経症傾向が高く(感情制御が乏しい)
- 外向性の得点が低い(内向的で社会性が乏しい)。社会的対処方法が不十分。
- 無力感を訴える。自分の周りで起こることをコントロールできないと考える。
- 絶望感
- 問題中心の対処スキルが拙劣。問題となる状況を1つに絞って焦点付けることができず、むしろ自分の問題を全体的なものとしてとらえる。
- 人と接するときは、「犠牲者としての生活スタイル」を示すようプログラムされている。「指示を待っている」傾向。
(61−64頁)
統合的治療プログラムの必要性
これまでは、慢性うつ病の臨床像をあきらかにする研究は行われたが、治療法はなかった。
「今日までのところ、慢性うつ病患者の多様な問題(認知ー感情、行動、対人関係)を解決するための統合的な精神療法プログラムは作られていない。特定領域に焦点をあてた伝統的な技法(対人関係に対する対人関係療法、認知行動療的な問題に対する認知療法)は、慢性うつ病にはあまり効果がないのは驚くにあたらない。」(64頁)
「CBASPモデルは、慢性うつ病患者を苦しめるような多面的な問題を解決するための、統合的で包括的な戦略である。」(65頁)
慢性うつ病患者の多様な問題
その時、「慢性うつ病患者の多様な問題について知っておく必要がある」
- 発達期にトラウマを経験しており、対人関係の失敗が繰り返されている。
- 前因果的な世界観に見られるように、認知の機能が原始的である。
- 人生における主な影響因子は患者の個人的なコントロールを超えている、という暗黙の認識を持っている。
- 対処技能のレパートリーが少ないので、何か1つの問題に焦点を当てて対処することができない。
- 社会、家族、職場での機能の妨げとなるような感情調節障害に苦しんでいる。
- 無力感や絶望感が強く、治療によって何かが変わるという楽観的予想が持てない。
- 対人的・社会的行動が、良くて「無効」で、最悪な場合は「無礼」である。
- 人に服従的に接するため、治療者は支配的な役割を避けることが難しい。
- 実際の体験から人間不信に陥っている。(65頁)
(大田)
このような特徴は、慢性うつ病患者だけではないかもしれない。若いころから長期間、ひきこもっている人、他の障害のある人にもあるかもしれない。
こういうわけであるから、慢性うつ病患者の治療には、患者とカウンセラーの双方に、長期間の忍耐が求められそうである。日本も、ここを取り組まないと、うつ病が薬物療法で治らない、自殺が減少しない、という問題を解決できないのではないだろうか。
「慢性うつ病の精神療法〜CBASPの理論と技法」
原著者:ジェームズP・マカロウ、
監訳者:古川壽亮(名古屋市立大学)、大野裕、岡本泰昌、鈴木伸一
発行:医学書院、2005/11/1、定価:5775円
CBASP=Congnitive-Behavioral Analysis System of Psychotherapy; 認知行動分析システム精神療法
(慢性うつ病のみに開発された精神療法である)