アメリカのマインドフルネス心理療法

「第3世代」の行動療法(2)

 =マインドフルネスと認知行動療法の統合

  今、アメリカでは、種々の問題領域に、マインドフルネス瞑想を適用することが行われているが、従来の認知行動療法に統合させていく可能性について、次のように論じている人々がいる。 (第12章の執筆者:G.Alan Marlartt ほか、11名のワシントン大学依存行動研究センターの人々の論文)
 認知行動療法の今後の展望を予測する上で重要な指摘であろう。ここで、東洋の仏教実践(思想内容ではなくて実践)に、新しい評価がなされている。仏教の瞑想(禅やヴィパッサナー瞑想)に高い称賛と篤い期待がこめられている。残念ながら、仏教実践を現代的に再評価して、現代的に再興させてくれるのが、日本人ではなくてアメリカの心理療法者である。日本は、3度目の、仏教の伝来をむかえようとしているといえる。二番手になるものの、日本の僧侶、仏教学者、心理学者、精神科医も、ぜひ、この新しい心理療法に目を向けて、臨床試験、研究を開始してほしい。日本人には、日本人に向く、マインドフルネス心理療法を開発していくべきでしょう。
 次にみられる総括は、東洋の仏教実践のマインドフルネスの種々の心の病気や問題行動を改善させる心理的なメカニズムについて説明している。日本の種々の問題の改善にも、貢献する可能性が高いことをよく説明してくれるように思う。

認知行動療法の進化・革命となる

 (だから、感覚、思考、感情、身体反応、気分、それらによって突き動かされる衝動観念、その観念による非機能的行動(依存物、強迫、回避、他者攻撃、自殺、非行犯罪行為など)、繰り返されることによる病気の発症、精神・身体症状の発現などについて、「心理教育」として説明し、そして、「患者自身の心で観察させ、それらのすべてを自ら観察し、受容し、執着から離れる訓練」をして、非機能的行為から脱出する。この実践をして、自ら達成できるようになることがマインドフルネス、つまり自己洞察瞑想法になる。目標を「心理教育」として説明して、その説明のとおりであることを観察してもらい、問題を自ら解決できるような「実践法を身につける」のが、「自己洞察瞑想療法」であるが、ここで記述されるのと同じような「意志作用」(「メタ認知」に類似する)を患者に開発させることになる。言葉での説明と実践は、仏教の「智慧」と「禅定」の双方の重視という治療方針と似ているのである。ただし、日本の禅宗の坐禅は、別な智慧(いわゆる「悟り」)と別な実践(「悟り」のための修行)を行っている。少しの違いであるが、だが、大きな違いになっている。目標が大きく違う(精神疾患などの解決VS悟り)ので、禅宗の坐禅そのものでは現代の問題に即座には貢献できない。心の病気の人が禅寺に行っても、 心の病気を治すための指導はしてもらえない。 心の病気や、問題行動の解決のための心理と、その目標に向けての実践に修正すると、大きな貢献をすることができる。自己洞察瞑想療法(SIMT)の課題は、30分程度、坐って坐禅のようなことをするとか、行動中も自分の心理状態を観察し続けていることなど、宗門の坐禅と類似している。坐禅のできる専門家が日本には多いのだから、この人的資源を使わないのはもったいない。禅を実践している人、研究している人など、マインドフルネス心理療法の動きに参画していただきたい。宗教思想にはふれずに、心の病気の治療段階をめざす。=大田)

認知そのものの変容ではなくメタ認知の変容

 マインドフルネス心理療法は、原初の認知療法のように、「思考の内容の修正や変容」をもたらすものの、直接的にそれを治療法の目的とする傾向よりも、メタ認知のレベルの変容を起こすことをねらい、問題の改善を実現する。メタ認知の変化によって、問題が改善し、思考内容も変化することはある。あまり、認知の内容そのものの深い分析を行うよりも、認知の仕方の全体からみていく手法である。だから、原初的な認知的技法、行動的技法も用いるが、それらを絶対とせず、マインドフルネス技法(種々の心理作用の観察、価値実現のことへの注意集中法、不要機能抑制法、徹底受容法など)を重視することになる。(メタ認知を、自己洞察瞑想療法(SIMT)では、西田哲学にならって、作用の作用、自己の作用の自覚、意志作用の活性化などという。=大田)

マインドフルネスは仏教の実践

 「仏教心理学の観点からいえば」として、マインドフルネスを「仏教」としている。 欧米の心理療法者は、仏教と同一視している。 これが、認知行動療法のエクスポージャーによる治療や系統的脱感作とも一致している。現代日本の仏教も、仏教には違いないが、特殊な部分(それぞれの僧侶や宗教学者が考える「悟り」)にかたよっていて、多くの現代人にとって貢献できるはずの大切な「幹」(現代の種々の社会問題を解決できるはずの部分)の部分から遠ざかっているように見える。  直接に、認知に訴えなくても、マインドフルネスを実行すると、リラクセーション効果も実感するので、つらい感情や気分からしばし解放される体験によって、そこから、非機能的な認知や行動を、修正、または、解き放つことができる。そういう方向を示唆しながら教えるのが、治療者の最初の役割であるが、やがて、クライエントが自らできるようになる。強いストレス状況が存在していないうつ病患者の場合には、深刻な自殺念慮でさえも、すぐに変わることがある。患者が、望む時には、いつでも、リラクセーション状態に入ることができるというのも、マインドフルネスの一つの特徴である。人の認知や行動は、感情や気分に大きく左右されるので、心の病気や問題行動の改善には、この効果も大きい。

思考、感情、非機能的な行動の悪循環を「一呼吸おく」

 この項は、依存症の治療の研究をしている人たちによって記述された。激しい衝動にかられてアルコールや薬物依存症の改善にさえも、効果がみられるマインドフルネスである。他の領域にも、マインドフルネス(瞑想=注意集中法、不要機能抑制法、徹底受容法など)がとりいれられてすぐれた効果が報告されている。従来の認知行動療法にマインドフルネスが付加されているのが、アメリカの最近の心理療法である。
  • アクセプタンス=与えられているもの(感情、思考、症状、身体感覚など)、「今、ここ」で経験しているものを、判断を介さず受け取ること。(36頁)
  • コミットメント=(37頁の記述から)コミットメントとは、具体的なホームワークや行動的エクササイズを使って、(障害からの回復に)効果のある行為のパターンを「自ら関与」していくこと。
  • マインドフルネス=「マインドフルネスの状態とは「ある特定の仕方で注意を払うこと、つまり、目的にそって、当該時点において、無評価的に注意を払うこと」を含むものである」(186頁)
    「アクセプタンスを行うためには、当然、注意を向け続けること、判断を避ける(あるいは素早くそれを解き放つ)こと、さらに覚醒の程度に気を配ることなどに対して、マインドフルネスに関わる必要がある。」(249頁)