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改良版のエクスポージャー
非常に大きな恐怖体験がトラウマとなって、通常の生活を回避、逃避するようになって、社会生活(学校、会社に行く、など)が阻害される。その結果、うつ病や自殺の原因の一つにもなる。この「トラウマ」からの回復にも、瞑想をおりこむ心理療法が有効であるようだ。アメリカの心理療法者が研究を続けている。
PTSDには、エクスポージャー法が用いられるが、これをできない患者や効果がない患者のために、新しい方法が開発された。
改良版のエクスポージャー・セラピー
アクセプタンスに基づくエクスポージャーは、以下の6つの点を重視する」としている。
- (1)私的・公的な行動の機能をそれぞれ査定し、私的な体験の回避として機能する行動を調べること、
- (2)思考、感情、身体的感覚、記憶などといった回避が最も習慣化している私的な経験のクラスを同定すること、
- (3)私的な経験を変化させる、あるいは制御しようとする試みが、効果的な解決法かどうかを査定すること、
- (4)特定の嫌悪性の高い私的な経験のクラスにクライアントを直面させ、同時に経験を回避するより、その時点のあるがままの経験を受け入れるように教授すること、
- (5)嫌悪的な私的事象の内容に人生の選択を左右されるのではなく、自分にとって価値のある生き方を見つけ、そのように日々を過ごすことの重要性を強調すること、
- (6)クライアントが自分なりの生きがいを見つけ、それに向けて実際に行動できるように支援すること。(292頁)
クライアントがこのようなことができるように、マインドフルネスとアクセプタンスがセラピストによって指導される。自宅での課題も行う。こうした訓練(エクササイズ)を並行していくので、クライアントは、エクスポージャー法を実行できるようになる。(5)(6)には、弁証法的行動療法と同様の効果が含まれる。この療法は、PTSDだけを治すことを超えて、もっと大きな生き方まで変えていくようである。(大田の経験では、うつ病やパニック障害であった人が、我々の心理療法で治癒した場合に、人生観、対人関係観まで良い方向に変わっていくのを見る。PTSDではないが同様の効果であろう。だから、私は「自己洞察法」と呼んでいる。新しい心理療法なので、適当な日本語名称が、まだない。便宜上、私の手法を自己洞察瞑想療法(SIMT)と呼ぶ。)
「我々の臨床研究のチームでは、我々のセラピーの概念化が、単なる1つの治療アプローチに留まるのではなく、より普遍的に、生きることとは何かを問う哲学であるという強い主張を掲げる。」(294頁)
こういう心理療法を行うセラピストは、自分でも、アクセプタンス、マインドフルネスのスキルが必要となる。(→セラピストもスキル訓練)
このように、マインドフルネス、アクセプタンスの手法は、トラウマ(PTSD、パニック障害など)の治療に効果がありそうであるから、アメリカでは、さらに研究が、すすめられていく。
この心理療法は、東洋哲学、つまり、禅、仏教の哲学を応用したものであるという。第2章の、弁証法的行動療法の著者が、特に強調していた。この章の著者も、こういう。
「東洋哲学は、これらの実践の効果に関する実証的検討を促進したが、西洋文化において重要性や有用性の高い実践が何かを仮説検証する作業はいまだに残されたままである。よって、心理療法の成果を評価する際に、変化のメカニズムとしてアクセプタンスやマインドフルネスといった中核となる構成物を操作的に定義し、実証的に検証することは、新たな行動療法を展開する研究者にとって不可欠である。」(296頁)
東洋哲学(西田幾多郎によれば現実には東洋に限定されずすべての人間に普遍的)は、いつの時代の苦悩にも応用できる哲学を含むのだろう。苦悩を直視し乗り越えていこうとする「自己洞察」の哲学であり、実践であるから。仏教、禅の哲学と、西田哲学は類似するが、全く同じではない。禅や仏教は現代の心理療法に応用できるように、論理的に記述されていないので、自己洞察瞑想療法(SIMT)では、西田哲学を参照している。もちろん、自己洞察瞑想療法(SIMT)と西田哲学は全く同一ではない。心理療法として応用できる部分を心理療法となるように解釈して、仮説、理論を作っている。
マインドフルネス、アクセプタンス(東洋にあった哲学・実践)の医学への応用は、アメリカで始まったばかりだ。開始は先手をこされたが、日本でも挽回できるチャンスがある。
アメリカの心理学者は、柔軟心をもって、現代社会に貢献できるように、自己洞察、自己変革を続けている。過去の形式、思想、理論、解釈に縛られていない。マインドフルネス心理療法のセラピストも日々、自分を変革させていく。
「心理学者は、現在の心理療法の限界を認識し、効果的な別の治療法を模索する道を歩んでいる。我々セラピストは、クライアントにもまして自分自身にも変化を求めるものなのである。そう、我々はサイエンティスト・プラクティショナーとして、この分野の発展に全身全霊を傾け、そうして世界を刷新するくらいに、日々奮闘しているのである。」(296頁)
神経生理学が進展しているので、その成果も参照して整合性を求めて、手法を日々、変えていく。治療効率をあげるために、諸科学の新しい研究の成果と整合性をとるために。一度学んだマインドフルネス心理療法に固執する人は、また陳腐化、時代錯誤になっていく。臨床経験のなかで、クライアントさんから、「それは難しい」と言われると、できそうな手法を開発しなければならない。
神経生理学的にここが問題だという研究が発表されたら、心理療法の技法がそこの改善におよぶかどうか検討する必要がある。自己洞察瞑想療法(SIMT)は、西田哲学と神経生理学が基礎になっているので、両方を深く研究するセラピストほど、自分で技法を開発することができる。マインドフルネス心理療法の臨床家は、ひとところに留まらない。
個人が「創造的世界の創造的要素」(西田幾多郎)であるから、世界が日々神経生理学の研究によって変わるから、世界と自己同一であるセラピストも変革していくのである。マインドフルネス心理療法は、ワーキングメモリの研究やメタ記憶の研究から多くを得ることができる。こういう科学と親近性がある。かなり、重なっている。マインドフルネス心理療法は、「治療する」という側面が前面に出ている。
諸科学の研究成果を織り込むので、技法が改良されて、適用領域が拡大されていく。一度、マインドフルネス心理療法の講座を受けた人も、臨床の中で手法と哲学を洗練させていくことが求められる。これまでは、うつ病に重点をおいたが、標準化した心理療法を提案でき、
本で公開したのを区切りとして、今後は、他の障害のための独特の手法の開発をしたいと思っている。
(注)
「マインドフルネス&アクセプタンス
ー認知行動療法の新次元ー」
編著=S.C.ヘイズ、V.M.フォレット、M.M.リネハン
監修=春木豊 監訳=武藤崇、伊藤義徳、杉浦義典
ブレーン出版、2005/9/10、3800円+税
9章の執筆者は、Victoria M. Follete, Kathleen M. Palm, and Mandra L. Rasmussen Hall