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欧米の心理療法の潮流=弁証法的行動療法(2)

カウンセラー(セラピスト、医者)も自己洞察スキルの体験が必要(2)

 アメリカのマインドフルネス心理療法者は、それを提供しようとする セラピスト(医者、カウンセラー)が、マインドフルネス、アクセプタ ンスの体験者であるべきであるというのです。 さもないと、従来の認知行動療法にあったリラクセーション法を付加し た程度になってしまって、第二世代の認知行動療法と同様になってしま うのでしょう。第3世代にならない・・・。
 支援者が体験していないと難しいだろうというのは、リネハンの支援の 言葉をみれば、わかるでしょう。

リネハンの弁証法的行動療法の「賢明な心」

 リネハンの弁証法的行動療法では、3つの心、すなわち、「合理的な 心」「 情動の心」「賢明な心」が提示され、「賢明な心」を自覚することが指 導され ている。エクササイズによって体験的に自覚する心である。知的分析に 依らな いで直観的な理解という特徴を持つ。「賢明な心」は、あらゆる理解の 方法( 観察、論理的分析、運動的および感覚的経験、行動的学習、直観)の完 全なる 協調の上に成り立っているという。

 リネハンの弁証法的行動療法では、この直観的といわれる「賢明な心 」を患 者が体験的に、直観的に、自覚できるようにエクササイズを指導する。 呼吸法 が用いられている。

 「呼気の終点に注意を集中させるようにしている」というのは、禅の 指導で いう「丹田」に似ている。「賢明な心」、内奥の自己に入り込む体験は 、簡単 にはいかないようで、蓋を開けるという比喩で、何度もトレーニングを 繰り返 していくことが期待されている。

 「井戸の底にある知恵の大海」というメタファー(比喩)にあるよう に、患 者が自覚しなかったが前からあったものを体験的に自覚させる。智慧を 生みだ す心のようなものを感じることが問題の改善に結びつく。
 「賢明な心に入り込む」とか 「中蓋が井戸の底の ように見えてしまうのだ。そのため、患者がそれぞれの蓋をいかにして 開ける か考え出すのを助けることがセラピストの課題となる。」
 こういうのであるが、文献を読むだけで、これを経験していないセラピストは、クライアント にどのような援助ができるだろうか。このような意味がわかり、そのよ うな指導ができるだろうか。 マインドフルネス心理療法のセラピストになる人は、自ら、マインドフ ルネス、アクセプタンスの実践者であることを要求されている。認知を変えるレ ベルの心理療法ではないのだから。 従来の認知行動療法における、リラクセーション、呼吸法などを補助的 に付加した心理療法ではない。自分が実践者でない人が、 クライアントにマインドフルネス、アクセプタンスの技法をやってみた ら、効果があったとかなかったという場合、その実施した手法とクライアントさんが実施した量を詳細に 記述すべきである。さもないと、アメリカでめざましい効果をあげてい る心理療法を日本の人に誤解させてしまうことになるだろう。マインドフルネス心理療法は、その実施量が問題となっている。変調をきたした脳神経回路が変化するには、長期的な繰り返しが必要であるためである。海馬における長期増強(LTP)や長期抑圧(LTD)に似た、恒久的な回路の変化には、長期的な繰り返しの刺激が関連すると推測されるからである。
 シーガルらの「マインドフルネス認知療法」は、再発を3回以上、繰 り返した人で寛解期に行って、再発防止の効果があるという限定された 効果であるというから、 まさに、うつ病の重症患者には効果がないことが確認されている。一方、マインドフルネスを付加した行動活性化療法は 、重症のうつ病でも改善の効果があったという。それほどに、手法の差 異によって、効果が大きく違ってくる。
 マインドフルネス心理療法のセラピストになろうという人は、自ら実践してほしいと、アメリカのマインドフルネス心理療法者は強調してい る。表層的に形式的に教えていると、またまた、長びいてしまう。大切な人生の1年2年を課題の遂行に費やす。 患者さん本位、来談者中心といえるのか疑問です。