第3節 関係フレーム理論

<第1>関係フレーム理論(RFT)と認知的フュージョン

 「言葉」で事実と同様の不安、恐怖が起きる。不安障害によくみられる広場恐怖の拡大がある。実際経験していないのに、不安の対象が拡大していくことを説明するのが関係フレーム理論、認知的フュージョンである。また、変化する内容と変化しない外枠とか、理解だけによらずに、訓練によって問題行動が解消していくわけも説明している。
 関係フレーム理論の要約を最初にみておく。次のように要約される。

<第2>関係フレーム理論の基礎

 「機能的文脈主義とは、問題解決や研究・分析における自らのゴール選択や価値といった「文脈や機能」に対して徹底的に自覚的であろうとする徹底的行動主義(行動分析学)の立場のことである。」
 そこで、「そのような機能的文脈主義(「行動分析学」と相互に交換可能な術後として扱う)の立場から言語がどのように捉えられているのかを検討する。」(注2)

 認知的フュージョンは、マインドフルネス心理療法による治療の方針の妥当性に関わるので概略を理解する。行動分析学では、言語は以下のように定義される(注3)。

<第3>刺激クラスと反応クラス

 「「言語は単なる記号ではない」というテーゼを含んだ行動分析学のスタンスを保持しつつも、「言語の記号的な機能はどのように扱うことができるか」について言及していくこととする。」
 「三項随伴性」の刺激も行動(反応)も、一つとは限らない。複数ありうる。そこで、その「まとまり」をクラスと呼ぶ。  そのクラスの各メンバーは、機能的に共通であればよく、形態的に共通している必要はない。たとえば、電車を見ても、「電車」という言葉を聞いても、不安から回避行動を起こすならば、電車のイメージも言葉も刺激クラスになる。いくつかの<刺激→反応>を経験すると、直接経験しない組あわせの刺激→反応が成立する可能性が高くなる。(参照:図2-1、刺激クラス、反応クラスの確立プロセス)(注4)

<第4>刺激等価性

 以上は、<刺激→反応>関係を扱うが、<刺激A→刺激B><刺激A←刺激B>関係という、刺激と刺激の関係、双方向性についてみていく。
 4つの条件を満たした場合、「刺激等価性の成立」という。(参照:図2-3、刺激等価性の定式化) (注5) ただし、Cのみ成立したとしても、刺激等価性が成立したとは呼ばない。

<第5>刺激等価性クラスによる機能の転移

 「刺激等価性が成立した場合、従来の三項随伴性における弁別刺激と異なる機能獲得の過程を示すような、先行刺激による行動の制御が生起することが実証されている。それは「刺激等価性クラスによる機能の転移」とよばれる。」(注6)
 「一般的には「概念」や「イメージ」による行動の制御と言われるものであろう。つまり、このような行動生起の機序は、非常に限られた経験から効率的な行動を生起させることができるというメリットがある一方で、行動レパートリーを狭めてしまうというデメリットにもなり得るのである。」
 全く同一ではないけれど、モデル訓練によって、刺激に対する制御の反応のスキルが拡大していく。マインドフルネス心理療法は、マインドフルネスやアクセプタンスの心の用い方を体験的、訓練的に指導する心理療法である。セッション内で指導したものと同一ではないような個々のクライアントの不快事象にも汎用性を持って効果的な制御行動ができるようになるのは、この原理なのだろう。確かに、注意しないとクライアントによっては、形式にこだわって行動レパートリーをせばめる場合がある。セラピストの指導を受けないで自分ひとりで行なうとその確率は高くなるだろう。一定の期間は、継続して、セラピストの指導を受けるのがよいだろう。

<第6>フレーム

 反応クラスのうち特殊な反応クラスがある。
 「中身は変わることはあっても、外枠はいつも変わらない」かのような「まとまり」を示す反応クラス」を「フレーム」(またはフレーミング)と呼ぶ。
 「そのような現象は、古くは「学習セット」あるいは「学習のための学習」と呼ばれてきた。また行動分析学では、より限定的な反応クラスとして「般化模倣」と呼ばれる現象として検討されてきた。」(注7)
 「この「般化」は「模倣する」というフレームがヒトに内在するかのように、今までに模倣したことがない新奇なモデルに対して、強化されることがないにもかかわらず模倣反応が生起するという状態を指し示すために使用されている。さらに、そのような模倣は、いくつかの特定の模倣反応に対する強化率を変動させると、それと連動して他の強化されない個々の模倣反応も変動する、つまりフレームそれ自体が「一回り大きい反応」として消長しているかのような状態なのである。また、このような般化オペラント、つまり「フレーム」(フレーミング)を確立する必要条件としては「複数の範例による訓練実施が挙げられている。つまり、そのような般化オペラントも随伴性によって確立・維持されるものであるということを意味する。」(注8)

 このような現象を応用して、マインドフルネス心理療法では、種々のトレーニングが指導される。確かに、カウンセリングが進行する途中で、まだ指導していない学習内容(後のセッションで計画していたスキル)であるスキルを先回りして実行するようになるクライアントがいる。パニック障害の体験談のクライアントも指導しなかったような自己の見方の変容を起こしていた。他のクライアントも、セラピーを修了しても実践を継続していると、思いもしなかった向上が起きるかもしれない。ただし、そのためには、一定期間、種々の内容のトレーニングに参加する必要があるだろう。たとえば、長くトレーニングに通うと20のスキルトレーニングがあるとしたら、これらのいくつかが相互に影響して新しい一回り大きい反応パターンを獲得するかもしれない。

 ところが、1、2回でトレーニングに通うことをやめて、自分でトレーニングすると、2,3個のトレーニングを長く継続することになって、一回り大きな反応パターンは形成されにくいだろう。

<第7>関係フレーム

 「Hayes(1991)は、クラスという枠組みで刺激等価性を考えるということを一定に評価しつつも、それ以上に<刺激ー刺激>間の「関係性」として刺激等価性を捉え直すことによって、さらに研究の進展が期待できるとした。そのように提案した理由は、「関係」は「等価」に留まらず、その他の多くの関係性も「言語」や「認知」に深く関与しているからである。そこで、彼らはフレームという枠組みを援用し「等価」関係以外の関係性も積極的に扱かっていくことを指向した。それが関係フレームである。」
 「関係フレーム」とは、フレームと呼ばれる般化オペラントのうち<刺激ー刺激>間の関係性に関するものを指す。その関係は、a)恣意的に適用可能で、b)派生的で、c)学習性で、d)文脈の統制下にあるという特徴を持っているとされた。」
 「また、その関係フレームは、以下の3つの特性を持っている。その3つとは
である。前節の刺激等価性で考えれば、@)は対称律、A)は推移律と等価律、B)は刺激等価性クラスによる刺激の転移に相当する。特性自体も、関係性が異なるだけで、機能は同様なものと考えてよいだろう。」(注9)

<第8>関係フレーム理論

 「関係フレーム理論という名称は1992年から使用されている。」
 「行動分析学は「影響」を目的としているため(「予測」はあくまでその副産物である)、 関係フレーム理論に使用されている「理論」とは、一般的な意味での「理論」とは異なる。ここでの「理論」とは、記述的かつ機能的であるような分析・抽出的な理論のことを指している。それは、対象としている行動に対して影響を与えようとした場合に有用な行動的原理を系統的に整理したものである。換言すれば、分析の正確性を保持しつつ、視野を広く取るために必要なものとされる。そのため、実際に実験的に検討された知見ばかりではなく、機能的でありさえすれば思弁的なものでも理論と呼ばれるのである。ただし、思弁的な場合には今後実験的に検討可能なレベルへの示唆を含まねばならない。」(注10)

(注)
  • (1)「マインドフルネス&アクセプタンスー認知行動療法の新次元ー」107頁。
  • (2)「アクセプタンス&コミットメント・セラピーの文脈」武藤崇、ブレーン出版、33頁。これからの記述は「機能的文脈主義」からみた「言語」である。以下、すべて、同書による。詳細は同書を参照されたい。
  • (3)同上、36-37頁、一部省略。
  • (4)同上、41頁の図。 (5)同上、44頁の図。  (6)同上、45頁。 (7)同上、46頁。
     (8)同上、46頁。  (9)同上、47頁。  (10)同上、48頁。