薬でうつは治るのか?(3)=再発が多いうつ病
=書籍紹介「薬でうつは治るのか?」片田珠美、洋泉社(新書)、780円+税
マスコミや本では、「うつ病は休養と薬物療法で完治する」と宣伝しているが、実際は、そうではない。患者に情報を十分に開示されないで、治療が開始されている。
精神科医、片田珠美氏は、次のように書いている。
四分の三が再発するうつ病
「うつ病の再発率が高いことは、各国の調査研究で報告されている。アメリカ精神医学会の見積もりによれば、最初の抑うつエピソードを経験した後、二年以内に五〇%が再発し、五〇〜八〇%は、生涯のうち少なくとも一度は再発するという。フランスでも、うつ病の二〇%が慢性化し、二〇%は抗うつ薬による治療に抵抗することが報告されている。各国の調査結果のまとめから、対象となる患者や類型分類、さらには調査方法にばらつきがあるにせよ、一般的にうつ病の四分の三に再発の傾向が認められることが明らかになっている。50%の患者が、最初の抑うつエピソードから二年以内に再発、二〇%が慢性化、さらに、十五〜二〇%の患者は、症状が一時的に軽減しただけの部分寛解までにしか回復しないという結果が出ているのである。」(18頁)
インフォームド・コンセント
薬物療法の限界をも示した上で、治療すべきであるという。
「誤解を招かぬように言っておくが、筆者はSSRIをはじめとする新しい抗うつ薬の効能をすべて否定しているわけではない。たしかにすぐれた薬ではあるが、ただし、きちんとした診断を行い、その治療効果の限界を明確にするという条件付きで、使用すべきではないかと主張しているのである。さらに、自殺衝動や攻撃行動を賦活する危険性なども含めて、副作用、影の部分についての十分な情報を、患者さんに与えるべきではないだろうか。専門家自身さえも信じていない奇跡を信じ込ませるのは、失望だけをかき立てることになるだろうから。」(167頁)
片田氏が言うように、うつ病はなかなか完治しにくいのは常識である。
どうして、こうも、情報を隠すのだろうか。たとえば、がんだったら、薬物療法を受ければほとんど完治します、とは言わないだろう。C型肝炎は、インターフェロンでほとんど完治しますとは言わないだろう。治験の結果では6割(あるいは8割とか)程度治っています、というであろう。他の病気は、治癒率は、経験的に、○○パーセント程度と示してくれて、患者に薬物療法を受けるかどうか判断選択をさせてくれるだろう。うつ病では、書物での治癒率が過剰な期待を持たせる記述になっており、実際の臨床でも、治癒率の実情を示さずに、抗うつ薬を処方する。心理療法があることも説明しない。
うつ病は、「認知療法」でもよく治ることを医者やマスコミが知らないのであれば、重過失ともいうべき勉強不足だ。いたずらに、患者に幻想を抱かせ、重大な他の療法の存在を言わず、患者の治療法選択の判断に悪い影響を与えてしまう。
文中に「自殺衝動や攻撃行動を賦活する危険性」とあるが、抗うつ薬を服用すると、自殺したり、他者を攻撃(殺傷)するような衝動的行動を起こす危険性があることが報告されている。こういうことを知らせていないから、オーバードーズ(抗うつ薬の過剰摂取)をする若者がいるようだが、自殺、他殺の衝動が起きるかもしれず、大変、危険であることになる。
うつ病には、多様な背景があって、純然たるうつ病(内因性)だけではなくて、自己攻撃、他者攻撃の人生の葛藤を持っている(心因性)かもしれない。そこに、こういう背景の克服の助言をせず、元気よくさせただけでは、自殺や他者の殺傷の衝動を起こすおそれがある。(162頁参照)
私(大田)も、薬物療法を否定はしない。急性期のうつ病の5割に、効果があるのだから。また、私どもの心理療法(マインドフルネス・アクセプタンス瞑想療法=自己洞察瞑想療法)では、実行できない患者もいる。課題を実行できない患者には、心理療法は効果がないので、薬物療法を用いるのがよいであろう。
ただし、薬物療法は再発が多い(心理的な要因の多い7つの条件にあてはまる患者が多いから)から、再発防止のため、完治のために、内因性以外の、すべてのうつ病患者に、心理療法を併用するのがよいと思う。特に、次の記事でみるように、心理的な葛藤によって起きたうつ病は、心理療法によって、その葛藤を克服しない限り、完治しにくいだろう。
(続)