薬でうつは治るのか?(6)=自殺・他殺の衝動
=書籍紹介「薬でうつは治るのか?」片田珠美、洋泉社(新書)、780円+税
薬物療法では、よいことばかりではなく、自殺や他者を殺害する衝動が薬によって起きていることが疑われている。薬を服用する場合、注意が必要である。
精神科医、片田珠美氏は、次のように書いている。
自殺・他殺
日本でも、抗うつ薬を服用中の患者が、自殺したり、殺人を犯す事件が起きている。一番ひどい時には、自殺する元気もいないのいだが、少し改善してくると、「自殺する元気が出てきたのだ」と説明されてきた。だが、違うのだ。改善したからではなくて、副作用で衝動的になるというのだ。自殺しないで、他殺に向かう患者がいることでも、衝動的なのだろうという推測ができる。うつ病はたいてい、自殺念慮となる。だが、心理的なアドバイスなしに、薬物療法が行なわれると、かねて、「自分がこんなになったのはあいつのせいだ、社会のせいだ」という恨みを持っていると、何も心理的なアドバイスなくて、他者にすべてを帰すことはできないというカウンセリングをしていないわけであるから、抗うつ薬で元気だけが賦活されると、恨む相手を殺傷する衝動をおさえることができなくなるわけだ。
片田氏は、いくつかの他殺事件を紹介して、抗うつ薬が衝動的にさせた可能性を指摘している。
「いずれの事件においても、SSRIの賦活作用によって自殺衝動や攻撃行動が高まったことが、凶行の一因となった可能性が高い。自殺と他殺は正反対のようでありながら、実は表裏一体であり、最初自分自身に向けられていた攻撃性が反転して、他者に向かい、殺人事件を引き起こしてしまうこともある。その場合、他殺は「間接的自殺としてとらえられる。」(162)
片田氏は、共同通信の記事を掲載している。
日本も遅れて、06年2月、製薬会社からも、抗うつ薬は、「自殺に関するリスクが増加するとの報告もある」という趣旨の注意が記載されるようになった。だが、日本の医者は、患者や家族にそれを注意していないのではないか。
「ハッピードラッグの「罪」についても、消費者である患者に十分な情報を与えることが必要ではないのか。そして、その影の部分を認識したうえで、薬物療法の助けを借りたいという人が服用するのは、個人の自由である。だが、都合の悪い情報は伏せたまま、ハッピードラッグの利点ばかりが宣伝されているのが、現状ではないだろうか。」(164頁)
「医者から薬をもらって治療を始めたから安心だ」というわけではないことになる。率は低くても、自分の家族が薬の賦活作用の衝動で自殺されては、たまらないから、そういう注意をされれば、自殺しないように気をつけるだろう。
薬の副作用としての自殺・多殺衝動の賦活作用が起きる割合が低いから、患者に告げる必要がない、というのはおかしいのだろう。そのリスクは、本人と患者が知っておくべきだろう。こういうリスクがあることは、薬の服用を始めたら、すぐ教えるべきであるから、心理療法もすぐ開始することに意味があるだろう。
母親がうつ病になると、子どもを殺すことが起きているが、たいてい、精神科にかかっていたと報道されているが、薬の副作用としての衝動なのかもしれず、疑わしいわけだ。配偶者がうつ病になったら、自分までうつ病にならないためには、「距離を置くのもいい」と言っていた人がいたが、危険ではないのか。配偶者のうつ病には、もう一方が、全面的に理解、支援をしなければ、あぶないし、ながびくおそれがある。遷延化する要因の一つが「(3)家族、とくに配偶者の問題」だ。配偶者が、理解して、他のこと(遊び、避けられるおつきあいなど)は多少けずってでも、全面的に協力して、ストレスを軽減させることが早期の治癒になるのだろう。心理的なストレスによる「心因性うつ病」が多いのだから。心因性うつ病は、かかえている葛藤を解決してあげなければ、ながびくおそれがある。