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リズム運動でセロトニン神経が活性化(後)
リズム運動はセロトニン神経を元気にする
目次
(16)「疲労はセロトニン神経の大敵」
(A)(要旨)
セロトニン神経が活性化されると、心身共に元気の状態になります。ところが、このセロトニン神経は疲労物質である乳酸によって抑制される、という性質があります。すなわち、リズム運動が長期になり、心身が疲労して、乳酸が身体と脳に蓄積してくると、セロトニン神経の働きが抑えられてしまうのです。
最も深刻な場合には、なにもかもやる気がなくなってしまって、いわゆるスランプ状態に陥ってしまいます。
乳酸は、例えセロトニン神経の活動自身が落ちていなくとも、標的細胞への作用を減弱させます。それが、不安のノルアドレナリン神経に影響すると、不安をコントロールできなくし、パニック発作を誘発することがあります。
それを克服するには、まず休養が一番です。しかし、それでも継続しなければならない状況の時には、気持ちの切り替えが大切です。やる気を起こす神経(ドパミン神経)を奮い立たせるのも一つの方法でしょう。
先のオリンピックの女子マラソンで優勝した高橋尚子選手には、小出監督という名監督がいて、前向きに気持ちを切り替えて、克服する方法が効果的であることを教えてくれた例があります。(これはHPをご覧ください)
(B)(HPから)
「元気の神経であるセロトニン神経は各種のリズム運動で活性化されますが、マラソンも典型的なリズム運動であり、それによってセロトニン神経が活性化され、心身共に元気の状態になります。ところが、このセロトニン神経は疲労物質である乳酸によって抑制される、というやっかいな性質があります。すなわち、リズム運動が長期になり、心身が疲労して、乳酸が身体と脳に蓄積してくると、セロトニン神経の働きが抑えられてしまうのです。」
「乳酸が心に影響することは、パニック発作の誘発法に、乳酸を点滴する診断法があることから分かります。この場合、パニック発作に直接関わる神経(青斑核ノルアドレナリン神経)とそれを抑制する神経(セロトニン神経)との相互作用が関与します。乳酸がセロトニン神経の働きを弱めて、不安を起こす神経であるノルアドレナリン神経を抑えられなくなることが原因です。乳酸はセロトニン神経終末において、セロトニン再取り込み機構を促進させる作用をします。それは、パニック発作の治療薬であるSSRI(選択的セロトニン再吸収阻害薬)の作用とは逆です。SSRIはセロトニン再取り込みを抑制して、弱ったセロトニン神経の活動を見かけ上、活性化させます。ところが、乳酸は、例えセロトニン神経の活動自身が落ちていなくとも、標的細胞への作用を減弱させます。それが、不安のノルアドレナリン神経に影響すると、不安をコントロールできなくし、パニック発作を誘発します。」
「同じ様な機構で、運動が過度になり、疲労物質である乳酸が蓄積してきますと、本来なら元気を演出してくれるはずのセロトニン神経の働きが十分に発揮できなくなり、スランプ状態を作り出してしまうのです。このような状況では元気の神経はもはや役に立たなくなります。
それを克服するには、まず休養が一番です。しかし、それでも継続しなければならない状況の時には、役に立たなくなったセロトニン神経に頼るのは考え物です。
こういうときには、気持ちの切り替えが大切です。やる気を起こす神経(ドパミン神経)を奮い立たせるのも一つの方法でしょう。」
「あと何キロ走らなければならないという後ろ向きの発想と、あと何キロでゴールだ、がんばろうという前向きの発想とでは、脳内回路の働かせ方が違います。後者は、やる気を起こすドパミン神経が主役を演じると考えられます。」
(C)(考察)
乳酸はセロトニン神経を抑えるということを理解しておくことは、呼吸法をする人にとって役にたつ知見である。うつ病の人は、絶望状態、閉塞感にあることが多いが、呼吸法(自己洞察瞑想療法の方法)での克服の可能性を説明すると、希望と信頼を持ってくれる人がいる。これは、ドパミン神経が活性化したのであろう。
乳酸はセロトニン神経を抑えるというから、呼吸法もパニック障害の人ならば、疲れるほどにしない方がよいであろう。禅寺の坐禅の修行には、摂心といって長時間坐禅することがある。注意すべきであろう。
そのような心配のない人(うつ病は発作性ではない)は、うつ病を治すのだ、二度と再発したくない、自分の真相を徹見するのだという前向きの気持ちがあれば、長時間、呼吸法をしても効果があるだろう。しかし、目的の定まらない坐禅では、その前向きの気持ちの持ちようもなく、長く坐禅する効果がないだろう。人間の行為は、心の持ちようが非常に重要な影響を与える。
(17)「心の三原色」
(A)(要旨)
心を演出する神経には、三つの主要なものがあります。平常心を司るセロトニン神経、快や意欲を形成するドパミン神経、不安や警報を発するノルアドレナリン神経の三つです。
セロトニン神経は、色で言えば、緑に相当します。ドパミン神経やノルアドレナリン神経に抑制作用を及ぼすことによって、平常心を演出します。坐禅の呼吸法やジョギングなどのリズム運動がセロトニン神経を鍛え、それによって平常心が養われ、ちょっとしたことで気持ちが舞い上がってしまうこともなく、逆に、すぐに切れやすくなることもなくなります。
心の赤色を演出するのは、ドパミン神経です。新しいものに絶えず好奇心をもち、飽くことなく喜びや快を追求し、何にでも果敢に挑戦していく。いろいろなものに興味を持つが、飽きるのも速く、絶えず移り変わっていくという欠点があります。
ノルアドレナリン神経は青色です。この神経はストレスや不安を受け持ちます。しかし、これがなくなると、痛みを感じなくなり、生存が脅かされます。人類が生存し続けて来られるのは、危機管理システムとして働くノルアドレナリン神経のお陰であるといえます。
これら三つの神経の働きが相互に影響しあい、さまざまな心の状態が生じます。緑のセロトニン神経(平常心)、赤のドパミン神経(やる気)、青のノルアドレナリン神経(不安)がそれぞれ組合わさった心の彩りを、マラソン時の心の変化に関連づけて、説明されます。
(B)(HPから)
「元気の神経として解説してきたセロトニン神経は、ドパミン神経やノルアドレナリン神経に抑制作用を及ぼすことによって、平常心を演出します。坐禅の呼吸法やジョギングなどのリズム運動がセロトニン神経を鍛え、それによって平常心が養われ、ちょっとしたことで気持ちが舞い上がってしまうこともなく、逆に、すぐに切れやすくなることもなくなります。他方、絶えず息の詰まる生活を続けると、セロトニン神経が弱ってしまい、こころの制御がむずかしくなります。こういうセロトニン神経は、色で言えば、緑に相当します。この神経に最も縁の深い人物は、呼吸法を世界に広めたお釈迦さんということになるでしょう。」
「心の赤色を演出するのは、ドパミン神経です。これが非常に強い人物が、ジョンFケネディ(1960年代のアメリカの大統領)といわれます。新しいものに絶えず好奇心をもち、飽くことなく喜びや快を追求し、何にでも果敢に挑戦していく人物です。いろいろなものに興味を持つが、飽きるのも速く、絶えず移り変わっていくという欠点があります。モンローのような魅力的な女性に対しても例外ではなかったようです。」
「ノルアドレナリン神経は青色です。この神経はストレスや不安を受け持ち、冷たいイメージがあります。この神経がなければ、不安や恐怖が消えて、どんなにか幸せだろうと、想像されます。しかし、痛みを感じない患者のことを考えて下さい。もし痛みを感じなければ、全身傷だらけで、それでも本人は気づかないということになります。極めて悲惨な状況で、当然、生存が脅かされます。人類が今日まで生存し続けて来られたのは、危機管理システムとして働くノルアドレナリン神経のお陰であるといえます。」
これら三つの神経の働きが相互に影響しあい、さまざまな心の状態が生じます。緑のセロトニン神経(平常心)、赤のドパミン神経(やる気)、青のノルアドレナリン神経(不安)がそれぞれ組合わさった心の彩りを、マラソン時の心の変化に関連づけて、想像してみましょう。」
「疲れてはいても、逞しい走りが期待できます。やはり、元気や平常心を演出するセロトニン神経が弱ってきた時には、ポジティブ思考でやる気を奮い立たせ、ドパミン神経を活性化させることが大切なのかもしれません。
なお、セロトニン神経を徹底的に鍛え抜けば、どのような状況でもエバーグリーンの心の状態が得られるはずです。」
(C)(考察)
マラソンの最初からゴールまでの、心のいろどりが説明されている。これは心の病気を治すための呼吸法をする上で、大いに参考になる。
「マラソンで走る前は、不安・緊張、号令で走り始めると、リズム運動で活性化されるセロトニン神経が働き始め、心の色は一気にセロトニンの緑色に変わります。セロトニン神経はドパミン神経とノルアドレナリン神経を抑制する働きがありますから、不安も取れ、また、はやる気持ちも落ち着いて、淡々と「平常心」で走り続けることになります。」
呼吸法も最初は、調子よくて、不安やストレスの解消を感じる。
「しかし、いずれ疲労が出てきます。疲労物質である乳酸はセロトニン神経の働きを弱めますので、それまで抑えられていたドパミン神経とノルアドレナリン神経の働きが前面に出てくることになります。どちらが心の彩りを支配するかによって、その後のレース展開は全く変わってきます。」
坐禅も疲れが出てくる。1回の坐禅では、始めてから、20分くらいで疲労を感じ出す。長期間の修行でいえば、3カ月目くらいから、坐禅への疲れを感じる。それを克服しても3年目でまた、スランプ。それからどうするかで坐禅も変る。
「やる気が失せ、苦痛やストレスが前面にでてきます。不安やストレス時に働くノルアドレナリン神経が心の彩りを支配します。この時、走るのをやめれば、気持ちは限りなくブルーに冷え込んでいきます。ただし、それでも必死に走り続ければ、セロトニン神経とノルアドレナリン神経の混合で、深緑色、苔色になります。その心情はわびやさびの心に通じるものがあるかもしれません。」
呼吸法をやめてしまうと、自己嫌悪になる。呼吸法に期待をつないだのに呼吸法さえもできないと自己嫌悪になる。それでも、呼吸法をやめないで続ける。そのような呼吸法も、セロトニン神経とノルアドレナリン神経の混合だろう。やめたいけれど、やめられない。やっていると、何とかかんとか呼吸法をする。
「一方、思いがけない声援や、ポジティブ思考を積極的にもつことによって、ドパミン神経が前面に出てくると、心の色は赤プラス緑で、茶色、赤銅色になります。土の滋養や熱せられた鉄を感じさせます。疲れてはいても、逞しい走りが期待できます。やはり、元気や平常心を演出するセロトニン神経が弱ってきた時には、ポジティブ思考でやる気を奮い立たせ、ドパミン神経を活性化させることが大切なのかもしれません。」
疲れを感じだした呼吸法も、指導者や配偶者の励まし、志の確認などで、またやる気を起す。目標の定まらない坐禅だと、「早く終らないかな」と苦痛になる。やめる口実をみつけて、3か月、1年でやめる。もうセロトニン神経の活性化はない。もとに戻る。
呼吸法も疲れない方法を会得すればよい。方法そのものの功夫を会得することと、目標、志を持つことが呼吸法の継続に重要である。
(18)「只管打坐と自己受容体」
(A)(要旨)
セロトニン神経にはオートレセプターという機構が備わっています。セロトニン神経が興奮すると、オートレセプターを介して自己にネガティブフィードバックをかけ、増えた活動を抑えてしまうという、やっかいな特性です。このため、簡単にはセロトニン神経の活動レベルは高く維持し続けられません。オートレセプターを絶えず繰り返し刺激し続けてやると、やがてオートレセプターの数が適応性に減少していきます。
坐禅も継続して数週間もすると、オートレセプターの数が減少して、セロトニン神経の活動レベルが普段から高いレベルに安定することになります。坐禅はただひたすら継続してこそ意味がある、すなわち、道元のいう只管打坐ということは、セロトニン神経の自己抑制回路によって説明可能なのです。
セロトニン神経には「自己受容体」があり、自己が自己を抑制する。そして、その抑制を解放するのは、知性によらず、腹式呼吸法などの実行である、という。人の真相、坐禅の真相を暗示して興味深い。
(19)「セロトニン神経の鍛え方」
(A)(要旨)
「セロトニン神経の働きが弱って、スランプやうつ状態、あるいは、切れやすい状態になったときに、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が使われることを述べましたが、使い続けると依存性の問題もでてきますし、服薬を中止すると症状が悪化することもあります。そこで、日々の暮らしの中でリズム運動を意識して実践することによって、少しずつセロトニン神経を鍛えることをお勧めします。時間はかかりますが、呼吸法、ジョギング、ウオーキング、など自分に合ったリズム運動を根気よく続ければ、自らの力で心身を元気にし、うつ状態やパニック発作を克服できるのです。」
リズム運動をする場合の注意です。毎日30分集中して行うこと、3カ月以上、継続することが大切です。
(B)(HPから)
「リズム運動を実践するときに、セロトニン神経の特質を考慮すると、次のチェックポイントに注意して下さい。
1 リズム運動は自分に合ったものを選択して下さい。長続きするものがお勧めです。子供にはウオーキングや自転車こぎがよいかもしれません。若い人には、ジョギング、エアロビクス、チューインガムを噛むなどが勧められます。中高年には、ウオーキングや呼吸法がいいかもしれません。この他、リズム運動なら何でもいいです。太鼓を叩くのも、念仏を唱えるのも、水泳でも、OKです。ともかく、無理なく継続できるものがお勧めです。
2 リズム運動は最低5分、通常20-30分、集中してやる必要があります。意識をリズム運動だけに集中しなければ効果がありません。だらだらと意識を散漫にしては、セロトニン神経は活性化されません。それから、無理や、やり過ぎも禁物です。30分以上のリズム運動では、疲労に気を付けて下さい。乳酸は大敵です。
3 できれば毎日継続して下さい。毎日は無理でも継続が不可欠です。効果が自覚できるのは、約3ヶ月です。次第に、心身に元気がでてくるはずです。1週間位ではダメです。途中、逆に元気が無くなることもあるはずですが、3ヶ月継続すれば、セロトニン神経のオートレセプターが減ってくると考えられます。ただし、それで辞めれば、また元の状態にもどります。自分の生活習慣にするほかありません。
4 セロトニンの原料は必須アミノ酸であるトリプトファンです。それは、バナナ、大豆製品(納豆など)、チーズなどの乳製品に豊富に含まれています。さらに、摂ったトリプトファンが脳内へ取り込まれ易くするには、炭水化物中心の食生活がよいとされます。なお、サプリメントとしてセロトニン自身を摂取することは間違いです。必ず副作用がでます。間違ってもやらないで下さい。」
(C)(考察)
何かの問題(心の病気や種々の悩み)を解決しようとして呼吸法をしたい人も、3カ月は継続すると必ず効果が出てくる。呼吸法をしてもだめだったという人は、心理的ストレス性のものではなかった、毎日しなかった、3カ月継続しなかった、正しい呼吸法でなかったためである。志をしっかり持って、「りん」として坐禅すべきである。自分の底力を信じて実践すべきである。
うつ病、自殺行動、パニック障害、摂食障害、「キレる子供」などの症状の改善、さらにストレスによる心身症の軽減などに、呼吸法を実践していただく価値がある。
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