帯状回の神経科学(2)
 =心の病気に関連する脳の臓器

 人は、怒ったり、不安、恐怖、悲しさ、嫌悪、ゆううつ、などの感情を起こす。こういう感情が異常に亢進したり、対処法がうまくいかないと、心の病気になったり、非行犯罪を犯したりする。
 感情を起こすのは、「扁桃体」が中心的な役割をになっているが、そのほかに、帯状回も重要な役割を果たしている。帯状回は、扁桃体と同様、大脳辺縁系に位置する。帯状回は、図(上)のように、いくつの領域に区分されて、異なる機能をもっている。特に、感情に関係するのは、前部帯状回吻腹側部である。  前の記事で、パニック障害(PD)と前部帯状回(ACC)について、述べた。

パニック障害の予期不安と帯状回

 痛みの予期不安と帯状回について、次の指摘がある。前部帯状回は、痛みも感知する。末端からの痛みの刺激が最終的に届くところであり、痛みの情動的評価をしている。 痛みは予期すると強くなる
 (A)の部分は、痛みのある患者(片頭痛でも、がんでも)が、痛みを気にするようになって、痛みを予期すると、小さな刺激でも、痛みを大きく感じる。痛みに過敏になる。閾値が低くなるためである。そこで、痛みのある患者が、痛みに注意を向ける傾向を変えて、痛み以外のことに注意を向ける訓練をすると、痛みが小さくなっていく。アメリカのマサチューセッツ大学医療センターで行なわれる「ストレス緩和プログラム」は、これである。心理的な訓練で、痛みが緩和される。

パニック障害の予期不安
 同じく、パニック障害の予期不安によって前部帯状回が過敏になっていることも、同様の仕組みであろう。はきけ、呼吸困難などのパニック発作をしばしば予期して不安を起こす患者は、前部帯状回の反応が増強される。つまり、発作が「おこるのではないかという予期により結果的に不安閾値が低下する(=不安過敏がおこる)こととなるのだろう。
 だから、パニック障害の予期不安の治療も、不安に注意が向くのをやめる訓練をして、不安の閾値を上げることが方針となればよい。予期は思考である。不安は感情である。患者に思考や感情に、注意を強く向けず、五感に注意を集中する自己洞察瞑想療法の技法は、予期不安の改善に効果が期待される。

痛みは持続すると前部帯状回や前頭前野の活性度が低下
 (B)の部分は、痛みが持続すると、前部帯状回や前頭前野の腹内側部の活性度が低下するという報告である。痛みを感じることが苦痛なので、生体が痛みを強く感じないように対処する。しかし、その結果、前頭前野の活性度が低下することで、うつになりやすいだろう。
 パニック発作も、発作の間隔が短くなって、常時、発作を起こすような重症では、うつ状態になって、前頭前野は活性度が低下するだろう。パニック障害の重い患者はうつ病も併発することが多い。