帯状回の神経科学(3)
=うつ病と帯状回
人は、怒ったり、不安、恐怖、悲しさ、嫌悪、ゆううつ、などの感情を起こす。こういう感情が異常に亢進したり、対処法がうまくいかないと、心の病気になったり、他者に暴力をふるったり、非行犯罪を犯したりする。
感情を起こすのは、「扁桃体」が中心的な役割をになっているが、そのほかに、帯状回も重要な役割を果たしている。帯状回は、扁桃体と同様、大脳辺縁系に位置する。帯状回は、図(上)のように、いくつの領域に区分されて、異なる機能をもっている。特に、感情に関係するのは、前部帯状回吻腹側部である。
- (A)前部帯状回吻腹側部=情動領域
- (B)前部帯状回背側部=認知領域
- (C)後部帯状回吻側/中間部=空間認知領域
- (D)脳梁膨大後方部=記憶領域
前の記事で、パニック障害(PD)と前部帯状回(ACC)について、述べた。
今回は、うつ病と帯状回の研究をみる。
うつ病と帯状回(1)
最近、脳神経の研究によって、うつ病の患者に、前頭前野、海馬、扁桃核、前部帯状回において
活動低下が認められる。
「うつ病の脳研究で、責任領域として帯状回が注目されている。それはおもに形態画像での前部帯状回の容積の減少や、機能画像研究で前頭前野、海馬、扁桃核と並んで前部帯状回においても神経機能を反映する血流の低下やグルコース代謝の低下が示されていることによる。」(1) ----- (A)
うつ病の患者は、前頭前野や帯状回の活動が低下しているが、これをそのままにしていれば、回復が遅れるだろう。ところで、うつ病患者でも、特定の課題を実行すると、その時には、前頭前野や帯状回の活動が高まる。この特徴を利用して、薬物療法によらずに、うつ病を改善する心理療法が考えられる。
「作動記憶 working memory の機能を調べる「N バック課題」をあげる。これは被験者に数字を順次提示し、いま見ている数字の N 個前を記憶しているか否かを問う課題である。一般的に N が大きいほど、記憶の負荷が大きくなり、fMRI では両側前頭前野や帯状回を中心とした領域で信号の賦活が観察される。この課題をうつ病患者に遂行させた研究では、これらの領域に健常者よりも強い賦活を認めた。一般的にうつ病患者の前頭葉の機能は定常状態で低下していることが知られているが、うつ病患者が記憶課題を遂行するにあたっては、健常者に比べて前頭葉の活動を「より高める」必要があるものと著者らは解釈している。」(2) ----- (B)
私は、うつ病の患者に、前頭前野が活性化するとされる課題をいくつも実行してもらう心理療法を行なっている。分配性注意法、注意集中法、思考・感情抑制法、運動などの課題を、毎日、多くの時間に実行する。
(1)Clinical Neuroscience 2005 Vol.23 No.11 「帯状回ーその多彩な機能」1298頁。池田研二(財)慈圭病院「うつ病と帯状回」
(2)同上、1305頁。八幡憲明、大久保善郎(日本大学)「感情障害(気分障害)と帯状回」