帯状回の神経科学(4)
=うつ病と帯状回(2)グリアの異常
今回は、うつ病も帯状回が関連しているという研究がある。
うつ病と帯状回(2)
最近、脳神経の研究によって、うつ病の患者に、前頭前野、海馬、扁桃核、前部帯状回において
活動低下が認められる。
うつ病患者の帯状回の活動低下がみられるというが、細胞レベルでどういうことが起きているのか。グリア細胞の異常(数=密度の減少)が起きているという報告がある。
「Ongur らは、家族歴のある感情障害(双極性障害14例、うつ病9例)の帯状回膝下部で皮質の容積の減少を認めた。神経病理学的に確かめられた容積減少は、MRI研究報告以外にPET研究での血流量の減少にも一致するものである。」(1) ----- (A)
「現時点では、報告者により内容に相違がみられるものの、うつ病の前部帯状回ではニューロンに関しては、統合失調症や双極性障害にくらべると異常の程度は軽い〜認められないとされている。グリアに関しては賛否はあるが、その数(密度)の減少が認められるようである。グリアは脳の細胞の大部分を占めており、とくにアストロサイトは脳の中で数が最も多く、高等動物ほどその構成比率が高い。」
「グリアのもつ大きな形態や機能の多様性と可塑性は、グリア系が精神機能の調整に関わっていることを示しているようであり、前部帯状回の機能的側面からグリアの異常がクローズアップされている。」(2) ----- (B)
これまで、ニューロンとシナプスが研究されてきて、グリア細胞の機能がよく知られていなかった。グリア細胞は、血管とニューロンの間にあって、栄養分をニューロンに渡す働きをもつ。電気的な興奮はおこさないが、化学的な興奮をおこすことがわかってきた。それによってニューロンの興奮をも引き起こすことが明らかになった。
うつ病は、ミトコンドリア(ニューロン内の小さな器官)の異常という説もあり、ここでは、ニューロンとは別のグリア細胞の異常という報告がある。
現在では、うつ病は、セロトニン神経の再取り込み阻害の薬理で治療しているが、将来は、ミトコンドリアやグリアに直接作用する薬を開発されるのかもしれない。その場合でも、薬で軽くなっても、また、心理的なストレスを受ければ、再発するに違いない。人生上には、何度も、心理的なストレスを受ける試練があるので、心理的なストレス(嫌悪、解決不能という心理)から起きるうつ病は、やはり、心理的な対処法から克服しないと根本的な解決にはならないだろうと思う。
薬以外で、前頭前野や帯状回の変調が回復する方法があるのならば、そちらの研究も重要だ。
こういう脳神経科学の研究から、そのような心理療法の開発の研究もひらけてくるだろう。
前頭前野に効果がある心理療法によって、うつ病が、改善するのであれば、帯状回も改善したのであろう。どのような仕組みで、改善するのか、脳神経科学者の研究がすすむのを期待したい。
(1)Clinical Neuroscience 2005 Vol.23 No.11 「帯状回ーその多彩な機能」、1299頁。池田研二(財)慈圭病院「うつ病と帯状回」
(2)同上、1300頁。