パニック障害は前部帯状回や交感神経が過敏
帯状回の神経科学(5)
=心の病気に関連する脳の臓器
感情を起こすのは、「扁桃体」が中心的な役割をになっているが、そのほかに、帯状回も重要な役割を果たしている。帯状回は、扁桃体と同様、大脳辺縁系に位置する。帯状回は、図(上)のように、いくつの領域に区分されて、異なる機能をもっている。特に、感情に関係するのは、前部帯状回吻腹側部である。
- (A)前部帯状回吻腹側部=情動領域
- (B)前部帯状回背側部=認知領域
- (C)後部帯状回吻側/中間部=空間認知領域
- (D)脳梁膨大後方部=記憶領域
(A)の前部帯状回吻腹側部(情動領域)は、側頭葉内側部(海馬を中心とした)、前頭前野、扁桃、視床などと密接な連絡がある。
パニック障害と帯状回
パニック障害(PD)には、この前部帯状回(ACC)の機能異常があるのではないかと研究が続いている。
パニック障害と帯状回については、2回ふれた。
- 帯状回の神経科学(2)パニック障害
不確かにおこる痛みを予期すると痛みをおこさない刺激に対する前部帯状回の反応が増強される。痛覚閾値が低下する(=痛覚過敏がおこる)。
また、予測不能で学習されていない痛み刺激の予期は、右の前部帯状回、前頭前野の腹内側部、中脳中心灰白質を活性化する。
- 帯状回の神経科学(1)パニック障害
PD患者は予期不安については、健常人よりも、帯状回の血流量が多い。
不安刺激に対して帯状回が過剰に反応する。
患者は、発作ではない些細な身体兆候でも発作を示唆する警告信号であると認知するようになり、さらにエピソード記憶が活性化されると、かえってそれが発作を誘発すると思われる。この仕組みに帯状回は重要と考えられる。
さらに、パニック障害や帯状回、自律神経についての研究成果をみよう。
「PAには強い情動体験に加えて、急激な心拍数の増加、発汗といった交感神経系の明らかな亢進症状が存在する。またPAの間欠期においても、PDには自律神経系の機能異常があるのではないかと言われてきた。」
「そこで我々は、寛解したPD患者を対象として、圧受容体反射baroreflexの自律神経反応について調べた。結果は、精神的負荷を与えた場合の、交感神経系の指標とされるMayer波帯域(0.1Hz付近)の血圧変動と心拍数変動の間の相互関係数の最大値は、正常者と比較してPD患者では有意に低下していた。このことから、寛解期のPD患者においても、自律神経系の、特に交感神経系の異常が存在することを示した。慢性的に存在する予期不安が、自律神経反応に対する天井効果、あるいは diminished autonomic flexibility (DAF)の状態を引きおこしているのかもしれない。」(1)
パニック障害の患者は、発作がおさまっている時でも、交感神経の過敏さがある。小さな刺激で、自律神経が亢進する。
だから、予期不安でも、身体のささいな反応でも、強く恐怖や嫌悪を起こすと、すぐ自律神経の過剰亢進にむすびつくと思われる。
そこで、自己洞察瞑想療法では、予期不安を起こす思考を抑制したり、ささいな身体反応には否定的な反応をせず、受容するか、注意を呼吸法などに転換する訓練をして、不安の思考や、身体反応への判断を抑制することを日課とする。
これを毎日、実践していると、予期不安を起こす回数や身体反応を発作に結びつける思考の回数が減少してくる。
予期不安や身体反応によって過剰に反応してしまって発作を誘発することが少なくなる。また、呼吸法などを繰り返し実行する(思考を抑制する実践を持続するので、抑制機能が強化される)ことにより、セロトニン神経の感情抑制効果と、前頭前野の抑制機能向上の効果によって、発作が起きる頻度が少なくなって、それによって、予期不安も解消し、広場恐怖も解消して、パニック障害が治癒する。
別に、ノベルが、帯状回情動領域と、認知領域は、互いに抑制するので、背外側前頭前野〜認知領域〜海馬の回路を活性化して、情動領域を抑制しつつ、習得した賢明な対処法を記憶の中から取り出して、選択して、行動することを習得するのだろう。
(1)Clinical Neuroscience 2005 Vol.23 No.11 「帯状回ーその多彩な機能」 Page 1295。北村秀明、塩入俊樹、染矢俊幸(新潟大学)「パニック障害と帯状回」