帯状回・ワーキングメモリや感情の抑制(5)=帯状回のワーキングメモリ機能
 =うつ病や不安障害(パニック障害、PTSD、対人恐怖など)治す心理療法(認知療法、マインドフルネ心理療法など)の方向

 次の続きです。

帯状回の情動領域と認知領域

 最近、脳神経科学の進展がめざましい。これによって、うつ病やパニック障害などの病態が解明されつつある。それらの研究成果をとりいれて、こういう病気の薬物療法ばかりでなく、心理療法を開発する。

 人は、怒ったり、不安、恐怖、悲しさ、嫌悪、ゆううつ、などの感情を起こす。こういう感情が異常に亢進したり、対処法がうまくいかないと、心の病気になったり、非行犯罪を犯したりする。
 感情を起こすのは、「扁桃体」が中心的な役割をになっているが、そのほかに、帯状回も重要な役割を果たしている。帯状回は、扁桃体と同様、大脳辺縁系に位置する。帯状回は、図(T-2)のように、いくつの領域に区分されて、異なる機能をもっている。特に、感情に関係するのは、前部帯状回吻腹側部である。
 うつ病や不安障害などについて考察するために、情動領域と認知領域の機能をみる。

情動領域

 扁桃体は、怒りや不安などの感情(情動)の発現に、扁桃体のほか、前部帯状回が重要な役割を果たしている。前頭前野や帯状回認知領域は感情や衝動の抑制に重要な役割をはたしている。

認知領域

 この領域は注意や運動の選択、運動のモニタリングなどに関係するとされる。
 認知領域は背外側前頭前野(DLPF)と眼窩前頭前野(OBF)に相互連絡する。視床ー海馬からの情報は、帯状回背側部とDLPFで統合処理されて、そこからの司令が海馬に到達する。さらにこの司令は、海馬から視床下部へ伝達される。従って視床下部には情動系と認知系の高次の司令が届き、洗練された自律神経性活動と情動行動が発現する。

視床下部

 情動領域、認知領域ともが視床下部と連絡があるが、視床下部には内蔵からの情報が入る。

帯状回もワーキングメモリの機能を分担

 次にワーキングメモリと帯状回について、述べる。ワーキングメモリは、次の記事で触れた。  保持や処理が”脳のメモ帳”の容量を超え、一時的にオーバーフローすると”物忘れ”や行為の認知のミスなどが生じる。(非行犯罪や心の病気が治らないような行動もこれであるとみられる)
 情報の処理に多くの容量を使ってしまうと、情報の保持には残った容量しか使えなくなる。このような場合、保持と処理の両者は互いにトレードオフ trade-off の関係にある。つまり、処理と保持の総計が一定量(ワーキングメモリの容量で個人内ではほぼ一定)を超えない範囲で、両者に適切な量を割り付けて、問題解決や認知課題の達成をすると考えられている。
 前頭葉(ACC)と前部帯状回の認知領域が協調して、ワーキングメモリの機能を実行していると考えられている。保持と処理の二重課題を課すテストで、ワーキングメモリの容量が測定される。 リーディングスパンテスト(RST)やリスニングスパンテスト(LST)という測定法である。  容量の大きい人は、HSSで、低い人は、LSSである。  心の病気(うつ病や不安障害など)の人は、帯状回の認知領域の機能が低下し、情動領域が過敏になっている。認知領域と情動領域は、相互に、抑制しあっている。そうすると、 次のことが言える。  すなわち、ワーキングメモリ(前頭葉と帯状回認知領域)が十分に機能しない場合、これがために、人は、感情にかられて、認知で他の有効な選択肢を選んで行動できずに、回避、強迫、依存、自殺、暴力、自傷、犯罪などの行動をしてしまう。また、心の病気を改善するような長期的な実践の結果、治癒するような心理療法の課題(長期目標の実現のために、今、課題を遂行する)の実行がむつかしくなっている。だから、心の病気や非行犯罪を治すためには、ワーキングメモリの機能を活性化するような方向で助言することが肝要であることになる。
 こういう点で、マインドフルネス心理療法の実践は、効果があるようである。アメリカでは、このような心理療法が薬物依存で犯罪を犯した人に対しても行なわれて、改善の効果をあげたと報告されている。認知行動療法やマインドフルネス心理療法(自己洞察瞑想療法もその一つ)は、感情的になる思考・行動を少なくするような助言をして、帯状回情動領域を沈静化し、認知領域(および、前頭前野)を活性化するような心の持ち方を訓練するので、ワーキングメモリの機能(前頭前野と帯状回認知領域)の向上ということにより、心の病気の予防・治癒、非行犯罪の予防・再発防止に効果があるのだと推測される。

(続)

(注)