ワーキングメモリとマインドフルネス心理療法(1)
お茶の水女子大学の榊原洋一教授は、ワーキングメモリは、次のような機能である、という。(注1)
- (1)いまやっていることを意識に留めておく
- (2)いまやっていることを続けて行なう
- (3)順を追って行なう作業の模倣
- (4)いまやっていることを過去の記憶と比較する
- (5)これからやることを過去の記憶と比較する
- (6)少し先まで推測する
- (7)現在の自分の状態を省察する
- (8)時間経過の意識
- (9)一定のルールに従った作業の遂行
- (10)個々の作業の前後関係の調節
心の病気になると、この機能がそこなわれている。心の病気だけでなく、非行犯罪をおかす人もワーキングメモリの機能不全がある。逆にいうと、この機能がそこなわれるので、社会生活に支障をきたす。うつ病、不安障害、認知症、など心の病気や、激しく怒るとか、パーソナリティ障害などに、ワーキングメモリの一部の不全が起きている。勉強や仕事をする、人と会話する、というような重要な場面でワーキングメモリの機能が使われるので、ワーキングメモリがスムーズに回転しないと、勉強、仕事、コミュニケーションなどに支障をきたす。
マインドフルネス心理療法は、この機能を回復する訓練をするような意味あいがある。自分の心を洞察し、今の瞬間の情報を充分観察し、自分の行動の結果を推測して、心理教育で確認したように「価値崩壊への反応パターン」をとらないように、記憶と照合して、
価値を思い起こして、習得した技法を記憶から思い起こして「価値実現への反応パターン」の行動を出力する。こういう心のスキルの訓練をする。
次の図は、心理教育に用いているプリントである。
自分の心(ワーキングメモリということになる)をなるべく感情におおわれないように注意しておいて、見る、聞く(直接経験を充分に観察するため)、他者の感情を推測する(次の行為次第で苦しむ結果を推測するため)、願いを思い起こす(これも無茶な行動によって「価値崩壊への反応パターン」をとらないため)、自分の心のプロセスを観察している((7)現在の自分の状態を省察する、ことである)、こういうことができるようになるのが目標だという。マインドフルネス心理療法の技法は、ワーキングメモリの機能向上の意味のある技法が多い。大枠は、認知行動療法なのであるが、「認知」を変えるというベックの認知療法とは、かなり異なる。
マインドフルネス心理療法も、いくつかの流派があって、私は「自己洞察瞑想療法」という。
(注)ワーキングメモリは、前頭前野や帯状回の機能である。うつ病になると、前頭前野の全般的な機能低下が観察される。ワーキングメモリも前頭前野の機能だから、うつ病になると、ワーキングメモリ機能もそこなわれる。
(注1)
「アスペルガー症候群と学習障害」榊原洋一、講談社、96頁