ワーキングメモリとマインドフルネス心理療法(1)

 お茶の水女子大学の榊原洋一教授は、ワーキングメモリは、次のような機能である、という。(注1)  心の病気になると、この機能がそこなわれている。心の病気だけでなく、非行犯罪をおかす人もワーキングメモリの機能不全がある。逆にいうと、この機能がそこなわれるので、社会生活に支障をきたす。うつ病、不安障害、認知症、など心の病気や、激しく怒るとか、パーソナリティ障害などに、ワーキングメモリの一部の不全が起きている。勉強や仕事をする、人と会話する、というような重要な場面でワーキングメモリの機能が使われるので、ワーキングメモリがスムーズに回転しないと、勉強、仕事、コミュニケーションなどに支障をきたす。
 マインドフルネス心理療法は、この機能を回復する訓練をするような意味あいがある。自分の心を洞察し、今の瞬間の情報を充分観察し、自分の行動の結果を推測して、心理教育で確認したように「価値崩壊への反応パターン」をとらないように、記憶と照合して、 価値を思い起こして、習得した技法を記憶から思い起こして「価値実現への反応パターン」の行動を出力する。こういう心のスキルの訓練をする。
 次の図は、心理教育に用いているプリントである。
 自分の心(ワーキングメモリということになる)をなるべく感情におおわれないように注意しておいて、見る、聞く(直接経験を充分に観察するため)、他者の感情を推測する(次の行為次第で苦しむ結果を推測するため)、願いを思い起こす(これも無茶な行動によって「価値崩壊への反応パターン」をとらないため)、自分の心のプロセスを観察している((7)現在の自分の状態を省察する、ことである)、こういうことができるようになるのが目標だという。マインドフルネス心理療法の技法は、ワーキングメモリの機能向上の意味のある技法が多い。大枠は、認知行動療法なのであるが、「認知」を変えるというベックの認知療法とは、かなり異なる。 マインドフルネス心理療法も、いくつかの流派があって、私は「自己洞察瞑想療法」という。